寅薬師

■寅薬師[とらやくし]

▽解説

 「寅」に縁ある仏像として「寅薬師」と称する薬師如来像を祀る寺や堂は複数知られていますが、東京都杉並区の石雲山常仙寺の寅薬師は、薬師如来が虎に化身して人を助けたという伝説が由来として語られています。

 常仙寺の本尊は行基作と伝えられる薬師如来坐像です。『江戸名所図会』などには、次のような開山縁起が記されています。
 この如来像は、永禄(1558~1570)の頃までは三河国の鳳来寺の山麓にあったものといわれています。三河の新城に暮らすある若者が狼に襲われたとき、如来像が虎に化現してその難を救いました。若者は薬師の恩に報いるために出家し、祥岩存吉禅師と呼ばれるようになりました。禅師は石雲山を開き、鳳来寺にあった像を移して本尊としました。石雲山という山号は、虎が顕現したとき、斑石が雲が沸き立つように大きくなって虎に変じたことに由来するといわれています。
 常仙寺の寅薬師は除災の仏として知られ、江戸時代から人々の篤い信仰を集めていました。

 寺には薬師如来像と共に化身である虎の像も安置され、火災や地震に見舞われてもなお無事に姿を保っていたといいます。ところが関東大震災の折、本尊や人々の身代わりになったかのように破損してしまい、昭和になってから新しい虎の象が作られました。
 また、虎像は夜間に出歩いて人を驚かせていたとも伝えられています。