是荷鳥

■是荷鳥[ぜにとり]

▽解説

 江戸時代後期に出された瓦版形式の摺物に「火輪(ひりん)」と共に描かれている鳥で、大火の後の世情を風刺したものです。

 
 この鳥の鶏冠は四文屋(安価な居酒屋)の田楽のごとく、両目は銭のような形をしていると言います。さらに翼は竹と材木板、胸元は酒樽、嘴は徳利、足は鍬、腹は提灯、尾は纏によく似ています。
 普段は「ひまだ、ひまだ」と鳴いていますが、ひとたび火輪、またの名を家化(やけ)という獣が現れると、その尻に取りついて「ぜにとり、ぜにとり」と鳴きはじめるといいます。
 是荷鳥は飛ぶにしたがって身に金銀の翼を生ずるため、金翅鳥(こんじちょう)と呼ばれることもあるといいます。

 
 是荷鳥は「銭取り」の意で、先に挙げた酒屋や火消の道具の他に、鋸、鑿、鉋、墨壺、鏝といった大工や左官の道具で体が構成されています。
 火事が発生すると火消が活動し、焼け出された人々は酒場に集まり、家屋や町の復興を大工たちが担います。すなわち是荷鳥の身は火事によって儲かる職業の者が使う道具によって形作られているのです。
 別名として記されている金翅鳥(迦楼羅)は金色の翼をもつ大鳥で、是荷鳥に擬せられた人々が火事によって大いに富むことを暗示しています。

 災害などにより利を得る職業の人々を怪鳥に擬して皮肉る趣向の図はこれ以外にも流布しており、安政地震の際の「稼鳥」「難義鳥」やコレラ流行時の「通神鳥」が知られています。
 


▽関連

火輪
稼鳥
難義鳥
通神鳥
泡喰鳥