草刈火

■草刈火[くさかりび]

▽解説

 『西播怪談実記』にある怪火です。


 元文(1736~1741)のはじめ、五月雨の頃に、佐用郡佐用村の半七という者が姫路へ赴き逗留していました。
 本来の用事は思うように進まなかったため、半七はある日の夕方にふと思い立って飾東郡蒲田村の知人を訪ねてみることにしました。
 
 雨が降るか降らぬかの道中、まだ目的地に至らぬ間に日が暮れてしまいました。
 すると、道の真ん中から突如として一筋の火が燃え出てきました。不思議に思ってじっとしていると、火がもう一筋出てきて、互いにもつれたりよじれたりした後にぱっと消えてしまいました。
 しばらくすると再び火が出てきて、また同じように消えました。

 半七は気味悪く思いながらも火が出た辺りを通過して、知人の家に辿り着きました。
 そこで先ほど見たもののことを話すと、知人は「以前から時々その火を見る人があり、草刈火と言い伝えている」と言いました。
 昔、草刈りの子が喧嘩をして、鎌で切り合った末に二人とも死んでしまったことがあり、それが哀れにも今なお修羅の相を見せているのだろうということでした。

 これは著者の春名忠成が半七から直接聞いた話であるといいます。


▽註

・『西播怪談実記』…播磨佐用村の商人・春名忠成が聞き集めた西播磨地方の怪談集。全八巻。前編は『西播怪談実記』の題で宝暦4年(1754)、後編は『世説麒麟談』の題で同11年に刊行され、後にも再編・改題を施されつつ再刊されたものと考えられる。