ヤマノケ

■ヤマノケ

▽解説

 インターネット上から広まった怪談に登場する怪物です。
 朝里樹著『日本現代怪異事典』によれば、インターネット掲示板『2ちゃんねる』オカルト板のスレッド「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?(洒落怖)」2007年2月5日の投稿が初出だといいます。

 この怪談の語り手はとある男性で、娘ひとりを連れたドライブの最中、ふとした悪戯心から人気のない山道へ入っていったところから話は始まります。
 山奥で自動車が故障したため二人はやむなく車中泊をすることとなりますが、深夜、白いのっぺりした何かが「テン(ケン)・・・ソウ・・・メツ・・・」と奇怪な言葉を発しながら接近してきます。
 その形は『ウルトラマン』(1966)に登場する怪獣ジャミラのように頭部がなく、胸の辺りに顔があり、足は一本、めちゃくちゃな挙動を続けながら助手席の辺りまでやって来ると恐ろしい顔でニタニタと笑っていたといいます。
 娘を守ろうと父親が叫びをあげたところその姿は消え失せましたが、同時に目覚めた娘は「はいれたはいれたはいれた……」「テン・・ソウ・・メツ・・」と発する錯乱状態となっていました。
 怪物が消えた後は自動車も復調し、父親は助けを求めて寺に駆け込みます。そして住職の言葉から、娘が「ヤマノケ」なるものに憑かれて狂気に陥っていることが発覚します。住職曰く、この状態が四十九日続けば二度と正気には戻らないといいます。
 ヤマノケは女に憑くもので、もしこのまま家に帰っていれば男の妻にも取り憑いていただろうといわれています。
 娘はそのまま寺に預けられることになりましたが、その身からヤマノケを追い払うことができないまま物語は幕を下ろします。

 
 この話の舞台は宮城県と山形県の県境とされており、ヤマノケという怪の名称も「山の気」「山の怪」「山の化」などの字を当てさせることを期待したものと思われますが、モデルとなった特定の伝承があるかについては明らかになっていません。




 家族が犠牲になるショッキングな展開と恐らく最悪の結末を迎えるであろうという後味の悪さ、登場する妖怪の奇態なふるまいからインパクト抜群の怪談であります。
 ヤマノケの発する言葉、姿、性質…いろいろと考察できそうな要素が散りばめられているのも人気の要因ではないでしょうか。