後神

■後神[うしろがみ]

▽解説

 鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』に描かれている妖怪です。

 柳の木の下に現れた後神と、その手つきに引き寄せられたかのように裏返った傘が描かれており、「うしろ神は臆病神につきたる神也。前にあるかとすれば忽焉として後にありて人のうしろがみをひくといへり」と記されています。
 なお、後神は頭頂に単眼がある女が空中で仰け反っているようにも、覆いかぶさるような体勢をとる黒い顔の化物にもみえるような姿をしています。下半身は幽霊のように細く、木のうろから伸び出てきたかのように表現されています。

 後神が引くという「うしろがみ」は後ろ髪(後頭部の髪)の意で、何事かが心残りで去りがたい、思い切れないといった状態を「後ろ髪を引かれる」ということに由来する文言とみえます。
 つまり髪と神をかけ、人に臆病心を起こさせる「臆病神」につく(つき従うの意か)神として、人の後ろ髪を引く神として創作されたのがこの「後神」であるようです。

 この他、宮川春水の『怪物図巻』にも「後神」と名付けられた妖怪の絵がありますが、こちらは石燕のものとは全く異なる姿をしており、関連性ははっきりしていません。
 寛政三年(1791)の山東京伝作『八百万両金神花』は様々な新手の神たちが活躍する話で、ここにも臆病神と共に後神が登場しています。この作品での後神は長い髪で顔面が覆い隠されており、石燕の後神と似た印象を受けます。

 昭和期以降は水木しげる等によって雑誌記事や書籍で繰り返し紹介される妖怪の一種となり、概ね石燕が記したとおり、物理的あるいは心理的に「人の後ろ髪を引く」妖怪として扱われました。
 水木しげるの著書ではより詳細に、首筋に冷たい手や熱いものをくっつけたり、風を使って傘などを巻き上げると説明されていることがあります。さらに岡山県津山地方の話として、臆病な女が夜道で後神に髪を乱されたうえ首筋に熱い息を吹きかけられたという例も紹介されています


▽註

・『今昔百鬼拾遺』…鳥山石燕による妖怪絵本。安永10年(1781)刊行。『画図百鬼夜行』『今昔画図続百鬼』に続く三作目。
・『怪物図巻』…宮川春水(生没年不詳)画。江戸時代中期ごろに制作された化物尽くし絵巻。