テラコッタル

■テラコッタル

▽解説

 昭和43年(1968)刊行の山内重昭著『世界怪奇スリラー全集② 世界のモンスター』にある妖怪です。
 同書では妖怪、怪物、モンスターなどと呼ばれるものたちを「科学派」「吸血派」「変異派」の三つに分類し、これらの物語を児童向けの読み物で紹介する形式を主としています。
 テラコッタルは上記三分類のうちでは科学派に属するらしく、怪物フランケンシュタインや黒ヒョウ男・ブタ男(ウェルズ『モロー博士の島』に登場する獣人)、殺人鬼ハイド、透明人間に次いで掲載されています。

 章題は「神か妖怪か」。
 それによれば、太古、青森県の亀ケ岡にあたる場所の森に青白い火の玉がギーンという轟音をたてて落下したことがあったといいます。
 星か、あるいは太陽のかけらか。正体を見届けようと森の奥に踏み込んだ村人の前に現れたのは、横一文字に細い瞳が走る、とてつもなく大きな目玉をもつ妖怪でした。
 人々は恐れおののいて逃げだし、村の長は生贄をささげて神々に祈りました。
 祈りが通じたのか、妖怪は森から出ることなく、青白い火の玉はその夜のうちに天へ帰りました。
 村の誰かがこのとき出会った妖怪を元に作った土人形が、それから数千年を経て亀ケ岡から出土した土偶なのだといいます。
 その正体は神とも人とも妖怪とも知れず、あるいは宇宙からの来訪者ではなかっただろうかとして、著者はこれを「テラコッタル」と命名したと語ります。勿論これはテラコッタ(素焼きの焼き物。またはその素材となる土)に由来するものと考えられます。
 なお、テラコッタルの姿を描いた挿絵はありません。
 

 この物語のモチーフとなったのは、明治十九年(1886)に青森県の亀ケ岡で発見され、その後も東北や関東で類例が見つかった特徴的な造形の土偶、いわゆる「遮光器土偶」です。縄文時代晩期に作られたものと考えられ、目の造形が北方民族が雪焼けから目を守るために用いるゴーグル(遮光器)を彷彿とさせるためにこの通称があります。
 1960年代頃からは新たな空想がはたらき、遮光器土偶は古代の宇宙飛行士、宇宙人を模したものだとする説が(オカルト的な文脈の上で)唱えられるようになりました。先進文明をもつ地球外生命体が太古の地球を訪れていたと主張するスイスのエーリッヒ・フォン・デニケン著『未来の記憶』(1968)でも遮光器土偶の宇宙人説が語られたため、このことは世界で知られる話題となりました。
 「テラコッタル」の地球来訪の物語もこのような発想から生まれたもので、それが当時の子供をとりまくメディアで存在感を増していた「妖怪」という言葉を用いて表現された例だったといえるでしょう。
 


 
 縄文時代の妖怪伝承が残っていたなんてすっごいなぁ……(純真)
 「名前がなかっただけで話自体は実際にあったことだから」とでも言いたげな堂々とした語り口で信じそうになったところで出てくる命名・テラコッタル!
 せめてもうちょっとこう……和風に……!