ふるやのもり

■ふるやのもり

▽解説

 日本全国に伝えられ、広く知られている昔話です。
 「ふるやのもり」とは「古屋の漏り」で、古い家の雨漏りのことをいいます。


 ある雨の夜、爺と婆が住む古い家に獰猛な獣(虎、狼など)と泥棒が、家畜を狙って忍び込みます。
 爺と婆の「虎や狼よりも “ふるやのもり” が恐ろしい」「今夜も “ふるやのもり” が来た」といった会話を聞いた獣は、この世に己よりも恐ろしい存在がいるのかと震え上がり、驚いた泥棒も天井から獣の背に落ちてしまいます。
 落ちてきた泥棒を「ふるやのもり」だと勘違いした獣は、彼を背に乗せたまま一目散に逃げ出します。
 やがて泥棒はなんとか獣の背から離れることができたものの、深い穴に落ちて自力で脱出できなくなってしまいます。そこへ猿が様子を見に現れ、穴の中へ長い尾を差し入れたので、泥棒はそれを掴んで外へ出ようとします。ところが無理矢理に引っぱったので尾はちぎれてしまい、それ以来猿の尾は短くなってしまったのだといいます。

 
 「ふるやのもり」は日本で最も分布範囲の広い昔話であり、後半の猿の尾の由来譚の有無の他には地域による基本的な内容の差がほとんどなく、まとまった形で語られてきたものとされています。

 古屋を訪れる動物は虎、狼の他に猪、穴熊、狒々などの場合もあり、山父ほか化物が来るもの、「虎狼」「獅子狼」といった獣を並び立てる言い回しをそのまま用いた一種の架空の獣が出てくることもあります。
 また、本来日本に棲息しない虎が登場する場合には、ふるやのもりを恐れるあまり日本から逃げ出してしまったとか、そもそも話の舞台が唐や朝鮮であるといった説明が付けられていることもあります。

 恐ろしい存在「ふるやのもり」については、ふるやんもり、ふるやのぼる、あめやんもり、むる、もるど、など土地土地の言葉で「古屋の雨漏り」を意味するものが用いられます。漠然と「恐ろしいもの」と表現されていることもあれば、虎や泥棒が明確に「化物」だと勘違いする描写が入っている例もあります。
 また沖永良部島では古屋に宿っている「古屋の漏りの神」を虎が恐れる話が採集されています。
 この他の変わった例では、夜泣きする子に対し「虎に食わすぞ」と脅しても泣きやまず「柿をやろう」と言うとぴたりと泣きやんだのを見ていた虎が自分より恐ろしい「柿」に怯える展開のもの(兵庫県多紀郡)などがあります。

 「ふるやのもり」の話は古い時代から伝承され続けてきたものとみられ、国内の文字資料では明和五年(1768)の『奇談一笑』に「屋漏可畏」の題でこの話が載っているのが早い例として知られています。
 人の話を聞いた獣が聞き慣れない言葉に恐れをなして逃げ、それに泥棒が巻き込まれるという形の話は中国、朝鮮、モンゴル、インドなどにも伝わっているようです。



 
 いつか妖怪図鑑の枠で「ふるやのもり」を紹介したかったのです。
 おはなしの中でも実際には存在しない扱いなのですが、登場人物たちの心の中には確実に恐ろしい何者かとして息づいていた瞬間があり、想像の中に巣食うものの魅力を感じずにはいられません、これらも紛れもなく妖怪の一端であろうと思っているのです。