泥田坊

■泥田坊[どろたぼう]

▽解説

 木原浩勝と中山市朗による現代の実話怪談集『新耳袋』第三夜(1998年刊)所収「どろたぼう」にて語られる妖怪です。


 神田神保町の某出版社に勤めていた女性の体験談です。
 編集長から「ここで夜を明かさんほうがいい」と深夜の残業を止められ、その理由を問うと「泥田坊だよ」との答え。
 この社屋で眠る人は、必ず異臭で目を覚ますといいます。その時、枕元にはドロドロの身体の人間、あるいは泥でできた裸の人間が立っているというのです。
 ある人がこの「泥田坊」に手を触れてみたところ、手はそのまま体内にめり込み、引き抜いた後も物凄い異臭が残ったといいます。ふと見やると、そこにはもう何者の姿もなくなっていましたが、やはり臭いは残り続けていました。
 当時の男子社員の大半はこれを目撃した経験があったといい、昔から誰いうとなく「泥田坊」と呼ばれていました。

 
 「泥田坊」といえば鳥山石燕が『今昔百鬼拾遺』に描いた田地に出るという妖怪で、これは石燕が暗喩や言葉遊びの要素を含ませつつ創作したものと考えられています。
 昭和期には妖怪を扱った漫画や児童書などでも頻繁に取り上げられ、比較的よく知られた妖怪のひとつとなりました。
 本話に登場する怪物も、この妖怪を思わせる姿をしていたことから同じ「泥田坊」の名がついたものと思われます。
 

▽註

・『今昔百鬼拾遺』…鳥山石燕による妖怪絵本の第3作。安永10年(1781)刊行。

▽関連

泥田坊


 
 初めて『新耳袋』の妖怪を描いてみました。たまにはこういうのもいいよね。
 泥田坊と呼ばれていますが名を借りているだけで態様は異なるので別物と扱ってよいでしょう。こうして名付けの範囲が拡大されていくことで個別の妖怪のイメージも変化していくのですかね。興味深い事例であります。