蜘蛛息子

■蜘蛛息子[くもむすこ]

▽解説

 岩手県遠野に伝わる話です。

 ある所に貧乏な父と娘が暮らしていました。
 母とは既に死別しており、父は畑仕事、娘は毎日山で柴などを採って生活していました。
 春、十三歳になった娘が山で青物を採っていると、そこに美しい若者がやって来て尋ねました。
 「お前は毎日そうして青物を採っているが、それを何にする」
 娘が「町に持っていって米を買ってきます」と答えると、次は一日の収穫にいくらの値がつくかと問いました。百五十文ほどになると娘が答えると、若者は「それなら俺が百五十文で買うから毎日ここに来い」と言うのでした。
 それから娘と若者は毎日同じ場所で会うようになりました。若者は約束通り娘に銭を百五十文ずつ与えました。
 
 十日ほどが過ぎた日、若者はこう言いました。
 「娘、お前は私の子供を懐妊したから大事にして産んでおくれ。実は俺は人間ではない、蜘蛛である」
 正体を打ち明けた若者は、そのまま大蜘蛛の姿になって山奥へと消えていきました。
 娘は驚いて家に帰り、山の若者が古蜘蛛の化身で、既にその子を宿していることを父親に話しました。
 父は「仕方ない仕方ない。その者が大事に産めというなら大事にして産むがよい。決して心配するな」と慰めました。それで娘も落ち着きを取り戻し、そのまま日々を過ごすうちに腹も大きくなり、やがて一人の子を出産しました。
 
 生まれた男子は上半身は人間ながら、腰から下は蜘蛛そのものでした。
 父と娘はこれも定めと思い、その子を大事に育てました。息子は丈夫に育ち、十四、五歳になった頃、このようなことを言いだしました。
 「俺はこんな体に生まれて人にも見られたくないし、外に出て働くこともできないから、床板に穴を開けておくれ。俺はそこに入って手仕事でもしたいから」
 不憫に思った祖父が言うとおりにしてやると、蜘蛛息子は床板の穴に入り、そこから上半身だけを出して細工物を作るようになりました。出来上がったそれを近所の子供たちに与えるとたいそう喜ぶので、その親たちが礼として米や金銭を持ってくるようになりました。
 蜘蛛息子は他にも木で神仏の像なども作り、それもまた世間に広めました。

 彼が二十歳ばかりになった年、長者の娘が病にかかりました。どのような療治を施しても効き目がないといいます。
 しかし、それを聞いた蜘蛛息子は、この病は特別な手立てがなくとも治るものだと言い切りました。
 「あの化物息子は何を言うか」と世間の人々に誹られながらも、蜘蛛息子は山麓の岩間から湧き出る清水を使えばよいことを長者まで伝えてもらいます。
 長者がまさかと思いながらも人をやって探させたところ、なんと蜘蛛息子が言ったとおりの場所で湧水が見つかり、それを娘に与えるとたちどころに病も癒えました。
 以来、蜘蛛息子のことは大評判となり、また占いもよく当たるので、彼の家の玄関には人集りが絶えなくなりました。
 貧乏だった父娘の家は、蜘蛛息子のおかげで長者になったといいます。