
■ぼうずがっぱ
▽解説
曲亭馬琴作の黄表紙『阴兼阳(かげとひなた)珍紋図彙』にあるものです。
曰く、雨がそぼそぼ降るときには「ぼうずがっぱ」という「かっぱ」が出ることがあります。
このかっぱは両腕がなくのっぺらぽんとして、その影はまるで火の見櫓のようです。
道中これに行き会う人は多く、ぼうずがっぱの屁を嗅いだことのある人によれば、それは至って油臭いものだったといいます。
毛並はほとんどが黄色、黒いものは好んで馬に乗ります。
これらはいずれも人を化かすことはなく、ただ雨の日にうそうそと出歩くのみ、天気の良い日には決して現れないといいます。
「坊主合羽(ぼうずがっぱ)」は雨具の一種で、桐油を塗った紙製の袖なし合羽のことをいいます。
『阴兼阳珍紋図彙』にある「ぼうずがっぱ」の正体は、合羽と河童をかけて、坊主合羽を着て出歩く人の様子を河童になぞらえ、本草書のように説明したものです。
絵にはぼうずがっぱが「アァ尻子玉が喰いたくもなんともないなァ」とつぶやきながら川辺を歩いている様子が描かれています。
また、その「影」として、合羽を着た人そっくりな形をした火の見櫓も描かれています。
▽註
・『阴兼阳珍紋図彙』…曲亭馬琴作。享和三年刊。題は『訓蒙図彙』のもじり。人の職業や装い等に本草書風の説明を付し、それに似た形の別物を並べて実体と影の関係に見立てて描いたもの。
▽関連
・河童
馬琴がまえがきに「面白い趣向も浮かばないけど版元に催促されるからとりあえず机に向かってネタをひねりだしたんだよう」みたいなことを書いていて、そのとおりなんだか苦し紛れな感のある安直なカッパです。
コメント
コメント一覧 (3)
簡単な字になったのに現代でも全然普及されておらず不思議な雰囲気を覚えます
それにしても作者のモチベ低っ。デザインも設定もテキトーだし
「アァ尻子玉が喰いたくもなんともないなァ」という台詞回しが
「話題に出しといて喰いたくねーのかよ」とアンニュイ感が半端ありません
ただ合羽を着た立ち姿が火の見櫓のようだ、という見方は風情を感じますね
実際そっくりだし
しかし作家は今も昔もネタを思い付くのに苦労してるなあと思うと少し微笑ましいかも(当人にしてみればそれどころじゃないだろうけど)。
なんか本草書パロディと影絵の見立てがあまり結びついてなくてちぐはぐな印象を受けましたね。絵も雨合羽着てる人そのものなんで、本文読んでみるまで妖怪に見立てた要素があることにまったく気づいていませんでした
カッパを着た河童ってゲームのキャラとかでも散見されますけど、こうして見ると江戸時代から続く伝統的デザイン手法ですね
>>2. ひぐらしのなぐる頃に さん
化けてすらいないという肩透かし。妖怪ですらないじゃないかと怒られそうでひやひやしてました。
馬琴や京伝の作を読んでると、今回みたいにネタ切れを嘆いてたり「こいつまた同じネタ使ってるよ」みたいなセルフツッコミが挟まれてたりして笑ってしまいます。やっぱりみんな人の子だ…!