■無常大鬼[むじょうだいき]
▽解説
仏教絵画、寺院壁画の一種「五趣生死輪図(ごしゅしょうじりんず)」に描かれる鬼です。
五趣生死輪は生きとし生ける者が輪廻転生する天・人・地獄・餓鬼・畜生の五趣(五悪趣、五道)の有様を大きな輪の中に描き込んだ図で、インド、中国、チベット、ネパールといった仏教文化圏内の各国で同様の図がみられます。五趣に修羅道を加えた六道として表現しているものもあります。
唐僧の義浄(635~713)によって漢訳された『根本説一切有部毘奈耶』に内容が示されるなど古くから定義されていた図ながら、日本では江戸時代後期に西教寺の慧海潮音が広めるまではほとんど描かれてこなかったとみられています。
無常大鬼は五道輪廻が示された車輪を抱く恐ろしげな鬼で、その名のとおり無常を象徴する存在のようです。
五つの世界に生きる一切の衆生は無常という大いなる鬼にとらわれ、それから逃れることができません。慧海による五趣生死輪図の解説書『五趣生死輪由縁幷圖』においても、無常の大鬼、または死王、あるいは俗にいう死神、これらに取りつかれない者は一人もないと記されています。
大鬼が抱きかかえている輪の轂(こく。車輪の中心で矢骨を受ける部分)には仏の姿があり、その周囲には貪・瞋・癡の三毒を示す猪(豚)・蛇・鳩が配されています。
轂の下には地獄の様相が浮かび、その左右に餓鬼道、畜生道、上部に人道、天道が描かれています。
車輪の輞(おおわ。外周部)五ヵ所には人が入った生死一組の釣瓶が見えます。これは釣瓶で水を汲み上げてはまた空けるのを繰り返すように、生死をもって輪廻が続いていくことを表すものです。
そして輪の外、無常大鬼の足元には、鬼の姿をとる「無明」にはじまり、行、識、名色、六処、触、受、愛、取、有、生、老死の十二因縁ほか計十八の相があらわれています。
▽関連
・鬼
・奪一切人命
・月日の鼠
好きな図柄なのであります。
輪廻する五道をまるごと抱えこんで放さない鬼という壮大なスケールで表現される恐るべき無常!
検索すると凄まじい形相をうかべた海外の作もいろいろ出てきますが、やはり日本的な鬼の姿で描かれてるものに惹かれます。こいつぁ姿は同じでも桁違いの大鬼だぞ!みたいな。
コメント
コメント一覧 (2)
これはもう全宇宙を包括する摂理のキャラクター化といっても過言ではないですね
見た目は鬼だけど暴れるとか退治するとか、そういう小さいレベルで語られる存在ではない
鬼と言うカテゴリで語るなら最上最大のものではないでしょうか
イラストも隅々まで力が入っていて見応えが素晴らしい
惜しむらくはサイズが小さいことですね。画面いっぱいに拡大して
「ここがこれに相当する…」といつまでも眺めていたくなります
大鬼の足元にいる無明鬼は十二因縁絵巻という作品だとラスボスとして登場するので、これもいつかちゃんと調べたいのです
抗いようのない摂理が形をとったものと考えるとアツいですよねぇ。生々流転の輪は止められず、輪の中に生きるわれわれには外でそれを引っ掴んでる支配者に手出しできないのですよね。
「奪一切人命」のときにも思いましたが、時間や無常というのは本当にこわいものなのですね~