ヨーシーグサル

■ヨーシーグサル

▽解説

 17世紀オランダのアルノルドゥス・モンタヌスが著した『東インド会社遣日使節紀行』(1669年。英題を訳した『日本誌』の名でも知られる)は江戸参府を果たしたオランダ使節団による日本の紀行という体裁の書物で、各国語に訳されて当時の欧州で広く読まれていたといいます。
 日本でも英訳本が出されたほか、1926年には文学博士の和田万吉による翻訳で『モンタヌス日本誌』として出版されましたが、こちらは抄訳となっています。

 作者であるモンタヌス自身は日本を訪れた経験が一切なかったため、実際の使節の紀行や宣教師による日本に関する報告書などの資料を収集し、想像を交えつつこの書を作り上げたと考えられています。
 それゆえにか、同書には不正確で、荒唐無稽でさえある記述や挿絵がたびたびあらわれます。

 『日本誌』によれば、日本の一大都市である大阪には「地獄の殿堂」なる高屋があり、日本人はここに安置された恐るべき偶像を礼拝しているといいます。
 その像の頭は猪のごとく、口からは二本の大きな牙が突き出し、頭には金剛石(ダイヤモンド)ほか宝石を満載した壮麗な冠を載せています。
 腕は四本あり、高く掲げた左の一本には円環を、もう一方の左手には蓮に似た花を、上の右手には火を吐く小さな龍を、下の右手には金の笏を持っているとあります。
 猪頭の鬼神の足元には牛の角をもつ別の悪魔が倒れており、鬼神はその腹や腿を踏みつけて身動きをとれなくしている様子です。
 日本人はこの悪魔をヨーシー・チーデバック(Joosie Tiedebak)と呼び、神をヨーシー・グサル(Joosie Goesar)と呼んで、その害を受けないようにと崇拝し、各種の供物をなすといいます。
 挿絵には日本語らしき記号が刻まれた台の上に鎮座するヨーシー・グサル像と、その周りに集う人々の姿が描かれています。
  
 『日本誌』執筆当時の日本にもこのような像は存在せず、ヨーシーグサルへの信仰も未知のものですが、この鬼神の姿形はヒンドゥー教におけるヴィシュヌ神の化身で猪頭四臂の神ヴァラーハに酷似しています。
 モンタヌスが当時オランダでも流通していたヒンドゥー教の神話を描いた図像を日本関連の資料として取り入れた結果、このような奇妙な記述ができあがったものと思われます。




 19回にわたってお送りしました猪と豚の特集もこれにておしまいでございます。できるだけいろんなところから猪や豚をおよびしてみましたが、如何でしょう。案外いろいろいるもんですね!
 最後は西洋人が思い描いた日本の神様をご紹介。今の目で見るとシンプルにめちゃくちゃで面白いです。