■当康[とうこう]
▽解説
当康(當康、當庚)は中国の書物に記されている獣の一種です。
地理書『山海経』「東山経」によれば、当康は金や玉が豊富な欽山という山に住んでおり、その姿は豚のようで牙があるといいます。鳴くときは我が名を呼ぶ、とあり、当康という名がその鳴き声を表したものであることがわかります。
これが現れると天下は大いに実る、つまり大豊作になるといわれています。
明代の字書『駢雅』には「当康牙豚也」とあり、牙豚という別名でも呼ばれています。
日本には山海経や大陸から伝来した類書(百科事典的な性質の書物)の類を通して知識が伝えられたらしく、たとえば江戸時代の『唐土訓蒙図彙』の禽獣部にも当康の絵姿と説明が載せられています。
同じく類書を参照して作られたと思しき、大陸の異獣異鳥を描いた絵巻などにも当康の姿がみられるようです。
『怪奇鳥獣図巻』にある当康についての詞書は生息地、鳴き声、出現すると天下が豊かになるという点は山海経と同様であるものの、外見についての記述はありません。この絵巻では豚か猪のような胴体に人の顔をもつ獣として描かれています。
中国古代史の研究者である伊藤清司(1924~2007)は「康」が「糠」の字に通じ、これが元来は実の熟した堅い籾を示していたことから、当康について「当康(必ず実る)と鳴いて出現するこの野生獣は豊作の招来者として歓迎されたのである」と述べています(『怪奇鳥獣図巻 大陸からやって来た異形の鬼神たち』)。
▽註
・『山海経』…中国古代の地理書。最古の部分は紀元前3~5世紀に成立。各地の山川に産する奇怪な動植物や鬼神に関する記述が多数ある。
・『唐土訓蒙図彙』…日本で作られた類書。平住専安著。享保四年(1719)刊。先行する『訓蒙図彙』に倣い、中国に関する知識についてまとめたもの。
・『怪奇鳥獣図巻』…作者不詳の絵巻。江戸時代頃の制作。『山海経』などにみられる奇怪な神や鳥獣類を76種描く。成城大学図書館蔵。
牙豚!がとん!!ってなんだかカッコイイですけど想像してみるととても猪ですね。それともバビルサみたいなものすごい牙だったんでしょうか。
情報自体は伝わっていたとはいえ、じっさい日本での知名度はほぼなかったでしょうが、なかなか縁起のよさそうな存在なんですね~おもしろいですね~ということで紹介してみる次第。
コメント
コメント一覧 (3)
そういう名前になったとか、
ギャオ~!って鳴くからギャオスみたいな
ネーミングですね
猪は田畑を荒らす害獣という印象強めですが
これは瑞兆というのが意外な感じです
イラストは牙が4本あるデラックス感が好きです
山海経を通して読んでみたときにはこの命名法が怒涛のごとく出てきたので「ここまだ読んでないとこだよな?」と常に自分を疑ってました
たしかに牙のある豚っていうなんだか悪そうな外見なのに豊穣をもたらす瑞獣ってギャップがあっていいですね
しかし山海経にそんなに自己紹介する動物がいたというのは初耳でした