猪の化物

■猪の化物[いのしし‐ばけもの]

▽解説

 大町桂月著『絵入訓話』(大正5年)の「百鬼晝行」で紹介されている四十一種の人の気質を風刺した妖怪のうち、四十番目に挙げられているものです。
 平福百穂による挿絵では二本足で立つ猪の姿で描かれています。

 筆者は「猪の化物」について、以下のように述べています。
 梶原景時や源義経を猪武者(向う見ずに敵中に突進していく武士)と罵ることがあっても、そのような猪武者の行動が平家を倒すなど功を奏することもあります。
 ところが猪の化物となると些か閉口してしまう代物です。
 たとえば学問のみを知って他のことを知らない学者、剣のみを知り他を知らぬ軍人、これらはいずれも猪の化物だといいます。
 牙をむいてまっしぐらに、盲滅法に突進してくる猪の化物に当たってしまうと、国家、社会、家庭、個人、一切めちゃめちゃになってしまいます。
 内にあれば勘当を食らう息子となり、外にいても監獄の厄介になるようなものがこの「猪の化物」なのだといいます。

 

▽註

・『絵入訓話』…大町桂月の随筆。大正5年刊。「百鬼晝行」の章では、世相を風刺する妖怪41種を平福百穂の絵とともに紹介している。