為篠王

■為篠王[いざさおう]

▽解説

 淡路島の先山にある千光寺の縁起に登場するものです。

 延喜元年(901)のことといいます。
 播州上野(宍粟郡)の深山に為篠王と呼ばれる大猪(背に笹を負っているとも白い大猪ともいわれます)が出没し、山野を荒らしまわっていました。
 猟師の忠太(藤原豊広)が矢を射かけたものの、為篠王は矢を負ったまま逃走、海を渡って淡路島に到りました。
 猪を追って淡路島まで来た忠太は、血痕をたどって先山に分け入りました。そこで忠太は大杉の洞の中で光を放つ千手観音の姿を目にします。千手観音の胸には忠太が放った矢が突き立っていました。
 忠太は大いに懺悔し、発心剃髪して名を寂忍(じゃくにん)と改めて、千手観音を本尊としてこの山の頂に寺を開いたといいます。

 この伝説にちなみ、現在の千光寺には狛猪の像が置かれています。


 「いざさおう」と呼ばれる大猪(猪笹王)が退治される伝承は奈良県吉野地方などにも伝わっています。和歌山や奈良に伝わる「一本だたら」との関連もあり、妖怪として紹介される機会はこちらの方が多いようです。
  

▽関連

猪笹王


 
 吉野から猪笹王の話が伝わって寺院の縁起譚と結びついたんですかね。話の形自体はよく見かけるパターンな気がしますし…
 片や死後も亡霊となって暴れる妖怪、片や観音菩薩の化身と、おなじ「いざさおう」でも位置づけが異なっていて面白いですね。