インモウ鬼

■インモウ鬼[‐き]

▽解説

 山田野理夫著『アルプス妖怪秘録』で長野県伊那の妖怪として紹介されているものです。


 伊那高遠の城下町に、廃寺となって今や名もわからなくなった寺がありました。
 かつてここには京都の本山で修行を積んだ無外という住職がいましたが、あるとき突然気狂いとなり、経もあげず徘徊するようになってから寺は寂れ廃れていったといいます。
 高遠藩の寺社役人が荒れ果てた寺を訪ねると、頭の毛の長い、鶏ほどの大きさの青い鳥が経を口にくわえて木魚の上にとまっていました。
 鳥は役人を見つけると、いきなり「バタバタ バタバタ」と堂内を飛び回りました。
 これはインモウ鬼という荒れ寺に棲む妖怪だったといいます。
 また、無外和尚の姿はどこにも見当たらなかったといいます。

 山田野理夫の他の著作には、屍の気から生じるという妖怪・陰摩羅鬼(おんもらき)の情報が元になったらしい「インモラ」という寺に現れてはばたきの音をたてる妖怪の記述があります。
 『アルプス妖怪秘録』のインモウ鬼の話もこれに類似した内容であるため、本来「インモラ鬼」とするべきところが誤表記によりこの名になってしまったのではないかと思われます。
 描かれたインモラ鬼の姿は文章の通り頭に長い飾り羽のある青い鳥ですが、オニオオハシなどの鳥類をモデルにしたものか、その嘴は巨大で、顔から胸にかけては黄を基調として色鮮やかに塗られています。
 

▽註

・『アルプス妖怪秘録』…山田野理夫著。小原剛太郎画。株式会社ナカザワ発行。土産物店などで販売された怪談集。日本アルプスに伝わる妖怪を紹介する内容だが、鳥山石燕が創作した妖怪が登場する点などから脚色・創作が含まれていると考えられる。

▽関連

陰摩羅鬼
インモラ



 なんだか愉快な字面とキュートな外見になってしまいましたねぇ。