魍魎

■魍魎[もうりょう]

▽解説

 「魑魅魍魎(ちみもうりょう)」といえば種々の妖怪変化の総称として用いられる四字熟語で、『春秋左氏伝』宣公三年の条にみえる語句が由来といわれています。山林の木から生じる妖怪が魑魅、山川木石の精怪が魍魎(罔両、罔象、方良、蝄蜽)とされ、杜預による左伝の注釈にも魍魎は水神であると記されています。
 

 前漢代の『淮南子』によれば、魍魎の姿形は三才ほどの小児のようで、肌は赤黒く、目赤く耳長く髪は麗しいといいます。また『本草綱目』には魍魎が好んで人の死体の肝を食らうとあり、日本の『和漢三才図会』の魍魎の項目にもこれらの記述が引き継がれているほか、水神を意味する「みずは」の和訓があてられています。
 添えられた図は『淮南子』以来の記述に忠実な姿をした魍魎が松の木の根元で足を組んで座っているもので、鳥山石燕はこれに倣い『今昔画図続百鬼』に魍魎を描いています。
 こちらの魍魎も松の木の根元から姿を現しており、土中から掘り出した人の死骸の頭にかじりつく様子が描かれています。
 
 このほか、死人の肝を食べるという性質から死体を盗み取る妖怪「火車」と同一視されることもあったらしく、江戸時代後期の随筆『茅窓漫録』には「火車に捉(つかまれ)たるといふことは和漢とも多くあることにて、是は魍魎といふ獣の所為なり」とあり、実際は獣の仕業であったのを人々が地獄から来た火の車と誤認したのだと解説されています。さらに二本足で立つ猫のような獣の図も添えられており、「魍魎」に「クハシヤ」と傍訓をつけています。
 一方、これよりも前に貝原益軒は『大和本草』魍魎の項で「魍魎は河童(がわたろう)なるべし」と述べ、火車と魍魎を同一視する説を否定しています。


▽註

・『春秋左氏伝』…『春秋』の注釈書で春秋三伝のひとつ。魯の左丘明著と伝えられる。左伝、左氏伝。
・『淮南子』…中国前漢時代の淮南王劉安と学者らが編纂した思想書、論集。奈良時代には日本に伝来していたとされる。
・『本草綱目』…中国明代の本草書。李時珍著。全52巻。動植物や鉱物など薬種についての詳細を記述する。
・『和漢三才図会』…江戸時代中期の絵入りの類書。大坂の医師・寺島良安の作。正徳2年(1712)成立。全105巻。
・『今昔画図続百鬼』…『画図百鬼夜行』に始まる鳥山石燕の妖怪絵本の第2作。安永8年(1779)刊行。
・『茅窓漫録』…医師・本草家の茅原虚斎の随筆。文化年間に写本として出回った他、天保4年(1833)の版本が広く流布した。
・『大和本草』…貝原益軒著。宝永6年(1709)刊。明の『本草綱目』を参考としつつ益軒の実地調査の成果も加えられたもので、日本初の本格的な本草書とされる。

▽関連

火車
河童
羵羊

 


 毎度のことながら、こういうわりと有名でカバーする領域の広い妖怪は解説がむずかしいから困る……。