もぞうす様

■もぞうす様[‐さま]

▽解説

 東京都八王子市の恩方に伝わるものです。


 昔、上恩方の狐塚に山本某という百姓がいました。
 彼はまだ独身で男振りもよかったため村娘たちの憧れの的となっていましたが、実は二世の契りを交わした美しい恋人がいました。
 山本家の近所には「もぞうす」という女好きの生臭坊主が住む寺がありました。もぞうすは村の後家のもとを回ったり、寺を訪れる良家の子女にちょっかいを出す迷惑で自堕落な悪僧でした。
 このもぞうすがあるとき山本某の恋人に横恋慕して、男の目を盗んでは接触をはかるようになりました。さらには「俺のいうことをきかないと……」といった調子で無理難題を吹っかけ、彼女を大いに困らせました。
 これを知った山本某は激怒します。
 しかし相手は菩提寺の和尚。女から手を引けと直接申し入れるのも憚られるかと大いに悩んだ挙句、ある夜に女の家を訪ねようとするもぞうすを待ち伏せして殺してしまいました。

 それからというもの、男の枕元には毎夜もぞうすの亡霊が現れ、彼をまた悩ますようになりました。
 そこで山本某はある夜、刀を枕元において眠りにつきました。例のごとく亡霊が現れ恨み言の数々を述べ始めたとき、男はもぞうすを一刀のもとに斬り捨てました。
 翌朝、男が畑の見回りに出ると、育てていた玉葱のひとつが真ん中から一刀両断にされていました。よく見れば断面からは赤い血が滴り落ちています。昨晩もぞうすの亡霊と思って斬ったのは、どうやらこの玉葱だったようです。
 山本家にはこの後も様々な不幸がふりかかりました。家人はこれを坊主の祟りだろうと考え、祠を建てて「もぞうすさま」と呼び、末永く彼の冥福を祈りました。
 それでもなお山本家では代々玉葱を作ることが禁制とされていたといいます。




 好青年を殺人にはしらせたうえ自分の悪行棚上げで祟りにきて作物のタブーをつくってしまうエロ坊主、あまりにも厄介者……。