たこ

■たこ

▽解説

 青森県北津軽郡金木町嘉瀬に伝わる昔話に登場する妖怪です。


 昔、ある盲目の男が三味線を抱えて、杖を頼りに峠を越えようとしていました。
 麓の人々は「日のあるうちに越えられず、山で野宿するようなことになれば命が危ない。間もなく日暮れなのだから明日にしなさい」と男を諌めましたが、強情な彼は聞き入れず「盲いたる身には夜もなし」と、とぼとぼ歩いていってしまいました。
 道中、一軒の空き家を見つけたので休憩をとっているうちに日はとっぷり暮れて、男はそのまま空き家を今夜の宿と定めました。
 真夜中、なんとなく寂しさを覚え、やがてそれが耐え難くなった男は、三味線を弾き、声を張り上げて歌い始めました。
 歌い終わると風がざわざわと鳴って、間もなく歌をもう一曲と所望する声が聞こえました。それは優しげな女の声でした。
 男は望みどおり歌い、終わればまた女の声に歌を求められ、望みに任せてまた歌うということを繰り返しました。そうするうちに夜も明け、女は初めて名乗りました。
 「妾はこの山中に住む “たこ” 」
 「たこ」は、麓の里に下りても山で女に逢ったと語ってはならない、語れば命はなくなるだろうと忠告して盲人と別れました。

 男は峠を下り、麓の酒屋を訪れました。
 店の主人は早朝に峠を下りてきた男を怪しみ「昨夜はどこへ泊まった」と尋ねました。
 「昨夜は峠の一軒家に泊まった。そこへ女が訪ねてきたので歌を聞かせてやったのだ」
 と語る最中、男はころりと死んでしまいました。
 そして、そこへ件の女が現れ、名を問う酒屋や客たちに向かってこう言いました。
 「吾こそはたこ。既に峠にて人の命を奪うこと数十。ただこの盲人だけは歌声が美しく、愛しくて命を取らなかった。されど誓いを守らぬゆえ、ついにこのようになってしまった。人々よ、もし吾がここへ来たことを口外すればこの者のようになるぞ。そのうえ村は沼と化すだろう」

 人々は急ぎ鉄棒を用意して峠の周囲を囲む鉄柵を作り上げ、今日のことを決して他言しないと「たこ」に誓いました。
 それを聞いた「たこ」は虫のようにのろのろと山へ帰っていきましたが、途中の鉄柵に妨げられて家に戻ることができず、とうとうそこで死んでしまいました。
 人々が集まった頃には、「たこ」の死骸は蛇身の正体をあらわにしていました。
 
 死んだ盲人と「たこ」を合わせて神として祀ったものが、後の「おしら様」であるといいます。


 以上が『津軽口碑集』(内田邦彦、昭和四年)に収録された「たこと盲人」の内容です。
 「たこ」の語義については説明されておらず未詳ですが、川合勇太郎『青森県の昔話』(昭和四七年)に収録された再話では「ぼさまと蛸」という題がつけられています。
 柳田國男は『桃太郎の誕生』において『越後野志』や『黒甜瑣語』など東北地方の文献にある盲人と大蛇の話の類話としてこれを紹介しています。そして「たこ」という特異な名の起こりを考えたいとして、人から龍に化身して田沢湖の主となったといわれる「たつ子(辰子、辰子姫)」との関連性を見出しています。



 
 蛇が蛸に変身する伝承が各地にあるので、この話の「たこ」も蛇が蛸になって、さらに女に化けてたってことなのかな?などと想像をふくらませて描いてみました。
 よくわからない名前、しかも前半部では盲人が独りきりで遭遇しているため姿さえ判らず、非常にミステリアスな雰囲気です。『津軽口碑集』は台詞も文語調で古めかしいですが、『青森県の昔話』では津軽弁に再翻訳(?)されて「も一つ唄コうだってきかへでけへ」なんて喋り方のたこ様が見られて、また少し印象が違いました。