端白姫

■端白姫[つましろひめ]

▽解説

 江戸時代に「猿蟹合戦」を当世風に脚色した絵本『今様噺猿蟹合戦』(作者不詳、岡山繁信か)の登場人物(蟹)です。


 あるとき、猿の頭目「こけ猿」とその家来たちが、外出中であった蟹の「泡吹蟹太夫」を襲撃しました。
 こけ猿の刀で蟹太夫は突き殺され、駕籠に乗っていた太夫の娘「端白姫」はこけ猿の家来「ましこ」によって攫われてしまいました。
 主の蟹太夫が殺害され娘が奪われたとの報せを受けた蟹の屋敷では、奥方や腰元「おかに」たちが悲嘆にくれていました。

 一方、姫を連れ去ったこけ猿は、彼女を我が物にしようと杯を突き出して迫りますが、「貴方の心に従うなど、わたしは嫌じゃ」と泣いて拒む姫に手を焼いていました。
 するとましこが女房の「さるぼ」を姫の説得役に推挙し、こけ猿はそれを認めて「姫を口説き落とせ。嫌と言わばその刀で討って捨てよ」と命じました。
 その頃、救いを求める端白姫は隙を見て、歌を書きつけた板をひそかに小川へと流しました。
 
 「父討ちし 敵は猿と 白波の 死すも重ねじ 端白の姫」
 流れてきた板を拾った蟹太夫の家臣「穴掘にせこう」と「あらかに」は姫を救出するべく、川筋を伝って猿の館へと踏み込みました。
 にせこうとあらかにが抜刀してこけ猿たちに挑みかかると、殺された泡吹蟹太夫の妄念が鋏やいが栗の化物に変じて出現し、猿たちを襲いはじめました。
 最後は大きな挽臼の化物となった蟹太夫の妄念に押しつぶされ、こけ猿は身動きがとれなくなってしまいます。そこへ端白姫を奪い返したにせこうが現れ、ついにとどめを刺され最期を迎えるのでした。
 こうして蟹たちは本懐を遂げ、端白姫も大いに喜びました。

 
 端白姫の名は爪の先が白い「端白蟹」からとったもので、その他の登場人物も猿や蟹の呼び名をもじったものとなっています。
 姫が歌を書いた板を流すくだりは、近松門左衛門作の浄瑠璃『国性爺合戦』において、錦祥女が流した紅(血)を見た和藤内が甘輝の城へ向かう場面などを念頭においたものではないかと考えられています。
 また、杯を手にして姫と対面するこけ猿の姿は「酒呑童子」を模したものとみられ、終盤の展開は源頼光と四天王の山入りを意識したものとみることもできます。
 猿蟹合戦の話で蟹に協力する栗や臼は蟹太夫の亡霊として登場し、元が蟹であるためか「鋏」の化物も活躍する筋立てとなっています。