姫鬼

■姫鬼[ひめおに]

▽解説

 狂言『首引』に登場する鬼です。
 

 鎮西八郎為朝(和泉流。大蔵流では「鎮西ゆかりの者」として人名は特定されていない)が播磨の印南野を通りかかった時のことです。
 突然目の前に恐ろしい鬼が現れて、為朝を取って食おうと襲いかかってきました。
 しかしこの鬼にはまだ人を食ったことのない娘がいたため、若い為朝を使って人間の食い初めをさせようと思い直します。
 呼ばれて出てきた鬼の姫、父に急かされ為朝を食おうと迫りますが、扇でひっぱたかれて恐れをなし「ああ痛い、痛い」と泣いて逃げ帰ってしまいます。叩かれたと聞いて親鬼は怒り、為朝を叱りつけてやろうと再び彼の前へ現れました。
 親鬼に問い詰められるも、為朝は扇であおいでいたところ姫に当たっただけと釈明します。そして、姫鬼を相手に何か勝負をして、負けたなら潔く食われるが、勝ったならば命を助けてくれないかと掛け合うのでした。
 「では、何の勝負をする」
 「腕押しをいたしましょう」
 
 父に促されてまたやって来た姫鬼、しぶしぶ腕押し、すなわち腕相撲の勝負に臨みます。が、か弱い姫鬼では豪傑為朝の相手になりません。瞬く間に打ち負かされ、今度も痛い痛いと泣いて逃げ出してしまいました。
 親鬼は勝負であったことも忘れて為朝の乱暴を叱りつけます。どうにか言いなして親鬼を納得させ、次に為朝と姫は脛押しで勝負をすることになりました。
 しかしこれも姫は敵わず、すぐに泣き出してしまいます。また怒る親鬼。
 次に為朝は「首引き」による勝負を提案しました。これは輪にした綱などを互いの首にかけて向き合い、引っぱって力比べをするものです。
 さっそく姫と為朝の首引き勝負が始まりましたが、行事を務める親鬼はこれまでの経緯もあって気が気でなく、やはり為朝優勢とみるや割って入り、勝負を中断させてしまいます。そして力の差があまりに大きいと理由をつけて、眷属の鬼たちに姫の加勢をさせると言いだしました。
 かくして、姫の後ろに大勢の眷属がついた状態で勝負が再開されました。親鬼が音頭をとり、拍子に乗って鬼たちが一斉に綱を引っぱります。
 このように鬼が夢中で引き合っている時に、為朝は急に己の首から綱を外しました。勢い余って後ろへ倒れ、転んで散り散りになる鬼たち。
 その隙に為朝は走りだし、ようやく鬼から逃れることができました。


 この演目では、鬼たちは厳めしくもどこか滑稽な表情も窺える「武悪」の面、姫鬼は不器量な娘の役に用いる「乙」の面で演じられます。