ラガル

■ラガル

▽解説

 ポルトガル語「lagarto」はトカゲを意味する言葉で、『日葡辞書』では竜が訳語としてあてられています。
 

 これと語源を同じくすると思われる「ラガルト」という海外の生物の記述が、江戸時代中頃の『華夷通商考』にも見られます。
 「ラガルト」という魚の大きさはおよそ二丈、腹の一部を除いて全身を覆う鱗甲は無類の堅さを誇り、槍や刀、矢でも突き通すことができないといいます。爪は鋭く、口に生え揃った歯は鋸のようで、その性質は甚だ猛悪。
 海中では魚を食らい、陸に上がったときは獣や人を食らいます。ただし動きが遅いため、多くの魚はこれを避けることができます。ラガルトは小魚を食べないため、かれらは常にラガルトに付き従って泳ぎ、他の魚の餌食になることを防ぐといいます。
 卵生で、卵は鵞鳥のものに近い大きさとされています。
 陸に上がったラガルトは地に涎を吐き、これを踏んで倒れた人畜に襲いかかり、たちまち食ってしまいます。また、これに遭遇して逃げようと走りだせばかならず追いかけてくる一方、人が追えばラガルトもまた逃げていくといいます。

 ラガルトにも天敵といえる存在がいて、ある魚はラガルトの腹の柔らかい部分を狙って刺し殺すといいます。またある小獣は身に泥を塗ってラガルトの口から腹中に飛び込み、五臓を食い荒らして殺すといいます。
 このほか、雑腹蘭という植物を植えてある場所には、ラガルトは近付くことができないとされています。


 『長崎聞見録』でもこの記述をもとにラガルトを紹介していますが、こちらでは名前が「ラガル」となっており、四足と細長い尾を具え、全身を鱗に覆われた「ラガル」の図が添えられています。


 『一宵話』には著者が聞いたという蝦夷の恐ろしい海獣についての話があります。
 これはかつて蝦夷の海に出たもので、大きさ一丈ばかり、爪は鋭く、歯は鋸のごとく、身体は鰐のよう、鮫に似た鱗甲は毒矢をも通さなかったといいます。
 いかなる大魚もこれには敵わず食い殺され、また陸に上がって獣さえ取り食らったといいます。ただし足は速くない様子だったので、蝦夷の人々はこれを捕えようと挑み、犠牲者を多く出しながらも、やがて腹に柔らかい部分があることを発見しました。彼らはそこを狙って毒矢を射ることで、この海獣を三匹仕留めました。
 数はそう多くないものとみえて、三匹を殺した後は同様のものが現れることはなかったといいます。
 これが何者であったかの伝承は失われてしまったものの、二、三十年後にこの話を聞き知った著者の秦鼎は、海獣は『長崎聞見録』にある剌加而大(ラカルタ)、すなわちラガル、ラガルトに相違ないと断言しています。

 剌加而大について通訳の者をとおして阿蘭陀人に聞かせたところ、さらに恐ろしい話が得られたと記されています。
 これは人が泣くような声を発して遠くにいる人を誘き寄せ、近付いてきたところをたちまち噛み食らうのだといいます。また、やはり涎で人を滑らせ食らうとか、水中にいるときは鈍い眼光が一たび陸に出ると大いに輝くとも語られています。
 そして冬の間は何も食べず、その口中には舌がないといいます。
 

▽註

・『日葡辞書』…1603年イエズス会宣教師らによりに長崎で出版された、日本語をポルトガル語で解説した事典。当時の日本語の実態を知るための重要な資料となっている。
・『華夷通商考』…長崎通詞で天文学者の西川如見の著作。オランダ人との接触により得られた海外の知識をもとに記された地誌。元禄8年(1695)初版、宝永5年(1708)に増補版が刊行された。
・『長崎聞見録』…京の蘭方医・広川獬の随筆。長崎へ赴いた際の見聞等を書き記す。寛政12年(1800)刊。
・『一宵話』…秦鼎著、牧墨僊編、画。全三巻。三巻の跋には文化庚午=7年(1810)とある。

▽関連


ホアヤ


 
 よく怪獣モノの伝奇要素として「古文書にみえたる怪獣出現の記録」みたいな図が発見される演出がありますけど、そういうシーンで出てくるのにぴったりな絵柄なんですよね、長崎聞見録のラガル。めちゃくちゃかっこいいですね。
 記事構成はまた廣田さんのツイートを参考にさせていただきました。