うにこうる

■うにこうる

▽解説

 西洋ではユニコーン(一角獣。額に一本角を有する馬のような想像上の動物)の角には解毒や解熱の効能があると信じられました。そのため、北極海に生息する海獣イッカクの長い牙などが一角獣の角と称して流通し、高値で取引されました。
 この情報はオランダから江戸時代の日本にももたらされたため、やはり一角獣の角は「ウニコウル」「ウンコウル」などと呼ばれ薬として珍重され、オランダ商館長の江戸参府時の献上品にも含まれるほど価値あるものとみなされていました。
 一角獣は舶来の伝説やヨンストンの図譜などに基づいて陸生の獣、あるいは犀の類ではないかと考えられましたが、後にその正体は鯨類の牙であるとする見解もあらわれ、こちらが通説となっていったようです。


 草双紙『名人ぞろへ』には、「うにこうる」と名付けられた獣の図があり、その捕獲の様子が描写されています。
 ここに描かれた「うにこうる」は鱗と水かきを有する四足の獣で、口は鳥のように細くなっており、耳の下から顎の辺りにかけて髭が生え、体側からも長い毛の束が幾筋か下がっています。そして、頭からはなんと二本の角が伸び出ています。

 この「うにこうる」を捕える際には、海岸に鉄製の網を設置し、その中に餌として魚を吊るしておくといいます。水の底から魚を発見したうにこうるは、これを獲るために陸に上がり、網の中へ入っていきます。その瞬間に網の出入り口を閉じて生け捕りにし、鑿を使って角を落とします。この角で撫でてやると、餌にしていた魚もたちまち生き返るといいます。
 このような力が備わっているために「うにこうる」の薬も死するものが生き返る効能があるのだろうか、と記されています。

 絵の中には、うにこうるを捕えようとする異国人らしき装いの男の姿も描かれています。男は岸辺に覗き穴つきの衝立を置いて身を隠し、鎚と鑿を用意して網に寄ってくるうにこうるを待っている様子です。
 


▽註

・『名人ぞろへ』…赤本。刊年、作者不明。子供向けに様々な異国の習俗などを描く。




 
 海外の幻獣が日本に伝わってなんだかすごい変化を遂げてしまったらしい例です。一角じゃなくなっちゃったよ!
 でもこれはこれで妙に神秘を感じる姿かなぁとも思うのです。笑みをたたえているかのような目つきも印象に残る絵でした。