猫の化物

■猫の化物[ねこ‐ばけもの]

▽解説

 大町桂月著『絵入訓話』(大正5年)内の「百鬼晝行」で紹介された四十一種の妖怪のうち、最後に挙げられているものです。

 第四十一番の化物は二足で立ち上がる猫の姿で、片手でひげをつまんで伸ばすような仕草をとっています。
 これはやはり猫の化物で、もとは今なお被害者遺族の多い「鍋島騒動」にて浮名を流したものだといいます。
 にゃあと優しげな声を出し、歩くにも足音を立てず、身体は柔らかく、一見いかにも愛らしいもののように思われますが、筆者はこう忠告しています。
 「其眼の鋭なるを見よ。その爪の鋭なるを見よ。その歯の鋭なるを見よ」
 猫撫で声に気を許そうものならそれこそ大変。猫は柔和なものと見せかけて「猛烈この上もなき怪物」であるといいます。
 その内面は陰毒にして険悪、しかし外側には柔軟矯媚な面ばかりが表れます。
 凡人の眼はただ外だけを見て内を見ようとしません。これこそ猫の化物の狙いにして、識者がはらはらと思うところであるといいます。
 そして、世の中には殊に猫にたとえられるような女性の変化も到る所にあり、有為の青年は用心しなければならないといいます。


▽註

・『絵入訓話』…大町桂月の随筆。大正5年刊。「百鬼晝行」の章では、世相を風刺する妖怪41種を平福百穂の絵とともに紹介している。


▽関連

鍋島の化け猫



 見かけの愛らしさにばかり気を取られていては恐ろしい目にあうよ、ということを猫の化物に仮託して語っております。 
 あれこれと四十種のおばけを挙げて最後の最後に猫がやってくるところに、身近でありつつ底知れない猫という生き物の妖怪ポテンシャルを感じちゃったりするのです。