侠

■侠[きゃん]

▽解説

 『当世故事附選怪興』に名前が挙げられている妖怪です。

 これは物を欲しがる様子が犬神のようであるために「侠(きゃん)」という名がついたといいます。小野定九郎の屋敷跡から夜な夜な現れては往来の人を悩ませ、鼻紙入(財布)、はした金を掠め取るといいます。


 「侠」とは、勇み肌(任侠の気風)なこと、あるいは侠客(義侠心を旨とする渡世人)を指す言葉で、ここでは犬の鳴き声の「きゃん」とかけて、そこから主人の欲しいものを悟って持ってくるといわれた憑物の犬神を連想して、これらによってごろつき、やくざ者のような輩を妖怪に見立てた洒落がこめられた文を作ったと考えられます。
 小野(斧)定九郎は歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』の登場人物で、逆熊の鬘に黒小袖の単衣という扮装とともに盗賊としての役回りがよく知られた人物です。 


▽註

・『当世故事附選怪興』…真赤堂大嘘作。安永4年(1775)刊行。人の気質や流行の事物を表す語句をもじって化物ふうに記し、合間に一部妖怪の図が挿まれている。

▽関連

犬神




 おなじく定九郎をモチーフにした妖怪に「手の長き猿」というのもいるんですけれど、同じ人物から発想次第で犬と猿ができあがるってなんだか面白いですね。ひとり犬猿の仲。