山犬

■山犬[やまいぬ]

▽解説

 山犬とはオオカミの呼称のひとつとして全国的に用いられてきた名で、1603年の『日葡辞書』にも既に狼を意味する言葉として掲載されています。
 おおむね狼と同一の動物の名称として用いられているようですが、本草学の分野などでは「豺(やまいぬ)」と「狼(おおかみ)」を別種の動物と捉えている場合もあります。日本で出版された『訓蒙図彙』『和漢三才図会』などでも、大陸の『本草綱目』に倣って豺と狼を別項に載せています。
 また、野生化した犬のことを山犬と呼ぶ場合もあります。

 狼は信仰の対象となる一方で魔物として恐れられることもあり、山犬の名でも伝承は数多く残されています。通行人の後をつけて転倒すれば襲って食い、しなければ帰宅するまでの守護となるというもの(いわゆる「送り狼」)や、口に骨が刺さった山犬を助けてやったところ、後に山犬から返礼の品を貰ったり危難を救われる昔話(「山犬の恩返し」)などは広く分布しています。
 
 この他、水木しげるによる妖怪画「山犬」に付随する説明文(『日本妖怪大全』など)では、和歌森太郎『宇和地帯の民俗』を参照して愛媛県宇和地方における伝承が数例挙げられ、「山犬」は狼ではなく犬の一種で憑物の類であると紹介されています。この説も水木しげるの著作を通じてよく知れ渡っています。
 

▽註

・『日葡辞書』…1603年イエズス会宣教師らによりに長崎で出版された、日本語をポルトガル語で解説した事典。当時の日本語の実態を知るための重要な資料となっている。
・『本草綱目』…中国明代の本草書。李時珍著。全52巻。動植物や鉱物など薬種についての詳細を記述する。
・『訓蒙図彙』…中村惕斎による絵入り百科事典(類書)。寛文6年(1666)刊。
・『和漢三才図会』…江戸時代中期の絵入りの類書。大坂の医師・寺島良安の作。正徳2年(1712)成立。全105巻。
・『日本妖怪大全』…水木しげる著。日本の妖怪425種を自身の妖怪画により紹介する。平成3年(1991)刊。