提灯お岩

■提灯お岩[ちょうちん‐いわ]

▽解説

 歌舞伎『東海道四谷怪談』では、夫である伊右衛門の策謀により非業の死を遂げたお岩の亡霊は、大詰の蛇山庵室の場面では様々なかたちで出現して伊右衛門たちを脅かし追い詰め、やがては死へと導きます。
 その演出のひとつに、伊右衛門が火を焚いていると、掛けられていた弔いの提灯が燃え上がり、中からお岩の亡霊が抜け出してくるという「提灯抜け」と呼ばれるものがあり、同作を象徴する場面として大いに知られ、数多くの芝居絵が描かれました。

 葛飾北斎の連作『百物語』の「お岩さん」は芝居の場面の再現に留まらず、破れた提灯自体が恐ろしげなお岩の顔に変化したさまを描いています。
 昭和以降に発刊された「妖怪図鑑」系の書籍等では、この図をもとに生み出された「提灯お岩」という妖怪が紹介されるようになりました。
 たとえば水木しげる著『日本妖怪大全』では、「お岩の霊が提灯に乗りうつって仇を討つということから生まれたものだ」と断ったうえで、夏祭りのときなどに軒下に吊り下げる提灯を夜遅くに眺めていると、だんだんと形が崩れてお岩のような恐ろしい顔になるのが「提灯お岩」という妖怪だと説明しています。これは怖い怖いと思っていると必ず現れるものとされています。
 他の作者によるものでもほぼ同様の解説がなされている例が確認できますが、挿絵は北斎の「お岩さん」を元にしながら「化け提灯」「提灯お化け」として扱っている場合もあり、一様ではありません。


▽註


・『東海道四谷怪談』…四世鶴屋南北作の歌舞伎狂言。文政8年(1825)江戸中村座初演。
・『日本妖怪大全』…水木しげる著。日本の妖怪425種を紹介する。平成三年(1991)刊。

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お岩