ごじゃごじゃ狸

■ごじゃごじゃ狸[‐たぬき]

▽解説

 熊本県宇土郡三角町郡浦村に伝わる妖怪です。


 これは八柳地区の高瀬家に伝えられていた話で、東京がまだ江戸と呼ばれていた時代の出来事であるといいます。
 三角の山村・八柳には高瀬新之丞藤原勝近という、飛ぶ鳥をも撃ち落とす鉄砲の名人が住んでいました。
 他の村人たちもみな働き者で仲良く暮らしていましたが、ある悩みを抱えていました。
 この村には得体の知れない盗賊の一団が出没して、田畑の作物を荒らしたり、家々の道具類を手当たり次第に壊したり持ち去ったりしていたのです。
 盗賊たちは村におりてくると、決まって「新之丞さんな、おんなはるか」と尋ねて家々を回ったといいます。「今日は、おんなはるばい」と答えれば盗賊は何もせず帰りますが、「おんなはらん」と答えてしまうと悪事をはたらいて村人を困らせました。
 話を聞いた新之丞は盗賊の正体を見届けてやろうと思い立ち、出かけたふりをして物陰に身を隠し、愛用の銃を抱いて賊の到来を待ち構えました。
 しばらくすると、遠くの山から編笠を被った盗賊の一団が何やらごじゃごじゃと言いながら里に出てきました。村人たちは恐れをなして家に駆け込み、ひそかに事の成り行きを見守ります。
 盗賊たちはいつものごとく「新之丞さんな、おんなはるか」と尋ねて家々を回りはじめました。村人から「新之丞さんな、おんなはらん」と聞いた賊がいよいよ悪さを始めようとしたその時、「悪党ども、新之丞はここにいるぞ」と新之丞が立ちはだかりました。
 目を剥いて驚く賊の頭領めがけ、新之丞の鉄砲が火を噴きました。
 すると一天俄かにかき曇り、雷電が轟き凄まじい嵐が吹き荒れました。
 しばらくして嵐が静まると、我に返った村人たちの眼前には数百年は生きたと思われる子牛のような古狸の死骸が横たわっていました。
 それからは八柳にも平和が戻り、村人も以前のように仲良く暮らしたといわれています。
 

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