猿婿

■猿婿[さるむこ]

▽解説

 「異類婚姻譚」に分類される昔話のひとつで、日本全国に伝わっています。
 「猿婿入り」「猿の婿様」とも呼ばれ、嫁入りする娘を主体として「猿の女房」などの題で記録されている場合もあります。
 猿に耕作を助けてもらった男が、約束のために娘を嫁として猿に差し出すも、やがて娘は機転を利かせて親元に戻ってくるという筋立てで、後半の展開により東(東北)日本型と西(西南)日本型に大別されるといわれています。

 まず、東日本型と分類されるのは次のような話です。
 ある年、日照りが続いて田の水が不足し、爺が「誰かこの田に水を入れてくれるものがあれば、その者に娘を嫁にやってもいいのに」と漏らしたところ、それを聞いていた猿が田に水を引き入れます。
 爺はやむなく三人娘に猿への嫁入りを頼みますが、長女と次女はこれを拒否、末娘が承知して山へ行くことになります。
 猿の嫁になった娘は三月節句に里帰りをすることになりました。この際、ついた餅を入れた臼を夫の猿に背負わせ、更に道中で淵の傍に咲く山桜の枝を折ってきてほしいと頼みます。
 そして、猿は誤って淵に転落し、背に縛りつけていた臼の重みで沈んでいきながら、「死ぬる我が身は惜しくはないが、残った妻が泣くのが哀れだ」という旨の辞世の句を残して溺死します。対する娘は「臼は上になれ、猿は下になれ」と念じながら走って逃げ、とうとう懐かしい我が家へと帰りつくのでした。

 話の発端は田に水を入れる以外に、猿が草取りや種まきなど畑の重労働を爺に代わって行い娘を要求する、猿に「悪戯をやめて仕事を手伝うなら娘をくれてやる」と戯れに言ったところ本当に爺を助けるようになったため娘を差し出す、などのパターンもあります。里帰りの際に取ろうとするものは、桜の他には藤の花、柿の実などと語られることもあります。
 また、猿が娘を迎えるためにわざわざ裃を着て山から下りてくるという描写が挿入されている例もあります。

 西日本型の猿婿入りの話では、娘は嫁入りした日のうちに猿を殺してしまいます。
 嫁入道具として用意した大きな水瓶を猿に背負わせ、川に差しかかったところで娘は持参した簪や鏡をわざと落とし、猿が川に入るよう仕向けます。
 嫁の持ち物を拾おうとするうち、背の瓶に水が溜まって川から上がれなくなり、猿は遂に溺死してしまいます。
 猿を陥れるための道具は語りによって異なることもありますが、機知に富んだ末娘の指示により用意されたものであることが殆どです。


 農夫が発した心にもない一言を言質として猿が娘を略奪するも、最後は猿が退治され娘が生還するという構成は、室町末期成立とみられる御伽草子『藤袋の草子』で既に確立されています。
 『藤袋の草子』では弓の名手が娘を助け、犬と共に猿の主従を退治する展開となっており、「猿神退治」の説話との関連がうかがえます。


▽関連

猿神





 2016年の更新もこれが最後となります。申年だったのでやっぱり猿で〆。