騰黄

■騰黄[とうこう]

▽解説

 暁鐘成著『雲錦随筆』は、京都のとある縉紳(官位、身分の高い人)の家に「騰黄」という神獣の図が蔵されているとして、狐に似て、肩に炎を纏い、背から二本の角を生やした長い尾の獣の図を載せています。

 騰黄は神代から日本にあること二千年にして、黄帝が治めていた唐土に渡ったといいます。黄帝は騰黄の背に乗って各地を巡り、天下の人民に初めて馬に乗ることを教えました。
 『雲錦随筆』は、黄帝が八翼の龍に乗じて天下を周遊したと伝えられているのは、実はこの騰黄のことであると説いています。
 また、天皇即位のとき紫宸殿の軒下に張り渡される「獣形帽額(獣形幔)」に施された数々の神獣の刺繍の中にも、騰黄の姿があることが記されています。


 中国北宋代の『雲笈七籤』が引く『軒轅本紀』にある記述が、このような騰黄に関する知識の元となっているようです。
 『山海経』「海外南経」には白民国に棲息する乗黄という獣の記述があり、これも狐のようで背に角があり、乗れば二千歳の寿命を得ると説明されています。このほか『淮南子』にある飛黄や、古黄、翠黄などの獣はいずれも騰黄と同一のものであろうと考えられてきました。


▽註

・『雲錦随筆』…木村明啓(暁鐘成)による随筆。文久2年(1862)刊。
・『雲笈七籤』…道教類書。北宋の張君房の撰。道教に関する主要な経典・書物を抄録して編んだもの。全122巻。
・『山海経』…中国古代の地理書。最古の部分は紀元前3~5世紀に成立。各地の山川に産する奇怪な動植物や鬼神に関する記述が多数ある。
・『淮南子』…中国前漢時代の淮南王劉安と学者らが編纂した思想書、論集。奈良時代には日本に伝来していたとされる。


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