獅子

■獅子[しし]

▽解説

 獅子は古代中国でライオンをもとに想像された獣で、ライオン自体の呼称としても通用しています。

 古来、獅子(唐獅子)は百獣の王、瑞獣と考えられ、美術品の意匠として巻毛の鬣を蓄えた勇壮な姿で描かれてきました。
 また、獅子の身に生じて肉を食い破り死に至らしめる「獅子身中の虫」が牡丹の花から滴る朝露で死ぬため、獅子は夜になると牡丹の花の下で休息するという伝説から、絵画などでは唐獅子と牡丹の組み合わせが特に好まれました。


 江戸時代の絵入り百科事典『和漢三才図会』は、『本草綱目』を引いて獅子を以下のように説明しています。

 獅子は百獣の長で西域に棲息し、形は虎に似るも虎よりは小さく、猱狗(むくいぬ)のような黄金色の体毛を帯びた、頭が大きく尾の長い獣で、体色は青いものもいます。
 そして銅の頭、鉄の額、鉤の爪、鋸の歯、垂れた耳、盛り上がった鼻をもち、眼光は稲妻のごとく、吼える声は雷鳴のようであるといいます。
 牡は尾の先に一斗ますほどの毛があり、一日に五百里を走ることができます。怒ればその威は歯にあらわれ、喜ぶとき威は尾にあらわれます。
 獅子が一たび吼えれば百獣はたじろぎ、馬はみな血尿を流すといいます。さらに、獅子は虎をとりひしぎ、貔(ひ。豹の一属)を呑み、犀を裂き、象を真二つにするほどの力を持っています。
 また、禽獣を食する際に獅子が気を吹きかければ、その羽毛はみな落ちてしまうといいます。獅子の毛を牛、馬、羊の乳中に入れると、それらはみな水と化します。そして、虎や豹は死んだ獅子でさえ敢えて食べようとはしないといいます。

 西域ではこの獅子を飼うことがあるといいます。
 生まれて七日以内のまだ目が開いていない個体を捕獲し、これを調教することで飼育が可能となるもので、これより成長している場合は調教も難しくなるといいます。
 猛悍な獅子にも天敵がいます。『博物志』には魏の武帝が白狼山に登ったとき、狸のようなものが獅子の頭に飛びついて殺した、とあります。また『唐史』(未詳。『酉陽雑俎』に類似の記述あり)には、高宗の時代に伽毘耶国から「天鉄獣」という獅子を捕らえる獣が献上されたとする記述があるといいます。


▽註

・『和漢三才図会』』…江戸時代中期の絵入り百科全書。寺島良安の作。全105巻。
・『本草綱目』…中国明代の李時珍による本草書。全52巻
・『博物志』…西晋の張華の著作。地理、人物、禽獣などの故事伝説を多岐に渡って収める。



 獅子そのものを妖怪の枠に放りこんじゃうとちょっと違和感ある方もいらっしゃるカモしれませんが、フシギ要素は多分にあるしまぁ許してもらえるだろうと……。
 要は面白いものをいかに何食わぬ顔でこの分野に引っ張ってくるかということですよ!