■大鯖[おおさば]
▽解説
沖縄に伝わる妖怪で、18世紀初期に編まれた琉球の伝説集『遺老説伝』にも「大鯖魚」の名で記述があるものです。
「サバ」とは伊良部島ほか南島でいうサメのことですが、上記のように「鯖」の字で表されることがあったようです。他の例では伊良部島の地名「鯖置」も、やはりサバ(サメ)ウツあるいはフツ(口)が語源とされています。
昔、宮古郡伊良部の村主を務める豊見氏親という男がいました。
同じ頃、平良の海には大鯖が棲んでおり、通りかかる船があれば必ず現れ、船を覆し多くの人間を食い殺していました。そのため、伊良部でも船を出そうとする者はいなくなってしまいました。
豊見氏親はこれを大いに憂い、頭を悩ませていましたが、ある時ついに決心して、自ら大鯖退治に乗り出しました。
神に祈りを奉げ、短剣を携えた氏親は、小舟に乗って遥かな沖へと漕ぎ出します。
すると、突然静かな大海原を割って大鯖が現れ、大口を開けて小舟に向かってきました。
海の中に躍り込んだ氏親は大鯖に一呑みにされてしまいましたが、腹の中で剣を振り回し、鯖の腸を滅茶苦茶に切り刻みます。さしもの大鯖もこれには堪らず、海面を血に染めて死んでしまいました。
帰還した氏親は村人から篤く感謝され尊敬を集めたものの、大鯖との決闘で精根尽き果て、間もなく息を引き取りました。村人たちはみなこの豪傑の死に涙したといいます。
彼の骸を葬った比屋地は、後の世にも神嶽として崇められました。
▽註
・『遺老説伝』…琉球の民話や伝説を集めた書物。18世紀初期の成立とみられ、国史『球陽』外巻と位置付けられている。
2017年12月11日追記
下記コメント欄にてUpoIravさんよりご指摘いただきまして、鯖=サバがサメであることが発覚。その旨の説明を冒頭部分に付け加えました。これ以前はサメでない「サバ」そのものの妖怪であるかのように紹介していました。
もう、完全に調べが足りてなかった……! 不覚!不覚です。ひじょうに申し訳ないのです。鯖の姿で描いちゃったよ!どうかそういうネタだったんだと一笑に付してくだされ。嗚呼。
コメント
コメント一覧 (3)
とネタ気分で読んでいたら雄々しき勇者の伝説だった・・・
絵も普通に恐い。何を考えてるのかわからない目と口元からはみ出た血塗れの腕に
人知を超えた獰猛さを覚えます。
伊良部の方言で、「サバ」というのは「サメ」という意味です。
なので、実際には大鱶のことなのですが、これはこれで面白いです。鯖の怪物、いいかもしれません。
ちなみに、この伝説は主に伊良部島東区(字伊良部及び字仲地)に流布しているもので、直接伝承されていなかった西区(字佐和田及び字長浜)では、主人公の「ウズノシュウ」の名前から「ウズ(ウツボ)」の怪物として誤って伝わっています。それはそれで面白いです。
--やってしまった! 「鯖」の字が使われているからにはあのサバしか有り得ないだろうと疑いもしませんでした。改めて方言事典とか調べてみたらサバ=サメ、フカとあって、サメのサバを鯖と表記する(ややこしい書き方)例も他にあったし、汗顔の至りでございます。地方名こわい。
教えて頂かなければこのままずっと大鯖をサメじゃない鯖の妖怪として情報を流し続けていたかと思うとおそろしいです。しかもうっかり描いちゃった絵のフォローまでしていただいて……重ねて感謝申し上げます。そして真相がわかってたいへん楽しかったです。
記事の方もすこし訂正しておきました。