風呂の生首

■風呂の生首[ふろ‐なまくび]

▽解説

 高知県高知市には以下のような話が伝わっています。


 昔、高知城下に山田という武士の家があり、当主の弟に「五内さん」と呼ばれる人がいました。
 五内さんは化物が好きだという変わり者でしたが、部屋住みの例にもれず、士官の道も嫁もなく、ぶらぶらとして日々を送っていました。
 
 ある日、五内さんは二、三人の仲間と、忠八という若党を連れて山へ狩りに出かけました。
 ところがその日に限って、行けども行けども一匹の獲物にも出会わず、一行は薄暗くなった山奥で雨露をしのげる場所を探し求める羽目になりました。
 そして、ようやく無住の古寺を見つけ、ひとまずそこで休むことにしました。
 寺には粗末な風呂があったため、水を汲み、火を焚き、一番に山田の五内さんが入ることになりました。
 五内さんが入った風呂の中では、女の生首らしきものが、髪を長く引きずるようにして浮いていました。
 化物好きの五内さんは「おお、おお、お前も入りよるか。一緒に入ろうのう」と生首に声をかけました。
 すると生首はニタリと笑って、うきうきした様子で五内さんの方へ寄ってきます。
 五内さんは動じることなく首を突き退け、体を洗い、ゆっくりと温まって風呂から上がりました。
 次の人が風呂へ行くと、やはり首のようなものが浮いていました。
 そこで髪を掴んで外へ放り出し、体を洗い終えるとまた首を風呂へ放り込んで、素知らぬ顔で「よいふろだった」と出てきました。
 次に入った人も同じように首を出して体を洗い、上がる際にまた首を湯に入れておきました。
 最後の忠八だけは風呂の生首を見て大いに驚き、大声で五内さんたちに助けを求めました。
 ここに至って各々は同じ首に遭遇していたことを知り、ただひとり生首と一緒に入浴した五内さんは仲間から感心されるのでした。

 夕食も済んでもう寝ようかという頃、月明かりが障子に女の横顔を映しました。
 五内さんが「べっぴんさんよ、おはいり、おはいり」と声をかけると、女はにいっと笑って消えました。
 しばらくすると、壁に立てかけていた猟銃が一斉にドンドンパンパンと音を立てました。
 このような怪事がしばらく続きましたが、やがて一同は深い眠りに落ちていきました。

 夜中、ふと目を覚ました五内さんが便所へ行くと、下の方から毛の生えた手が伸びてきて、尻を拭こうとします。
 それをすかさず捕えた五内さんは、ふんどしで謎の手を入口の柱にしっかりと縛りつけて寝床に戻りました。
 翌朝、一番に起きた忠八は、額の白い大きな古狸が柱に縛られているさまを目の当たりにしました。
 皆はさっそくこれを狸汁にして食べ、その後無事に家に帰ったといいます。