ゴリラ女房

■ゴリラ女房[‐にょうぼう]

▽解説

 沖縄県の「読谷村民話資料集」の一編として刊行された『儀間の民話』(昭和58年)には、大正五年生まれの話者による「ゴリラ女房」という民話が収録されています。


 ある所に、島々を探検してまわる五、六人の若者の集まりがありました。
 彼らはある時、川伝いに山奥へと舟を進め、宝物を求めて人跡未踏の深山に上陸しました。
 一人が陸に降り立つと、突然大きなゴリラが現れて、彼を捕まえました。
 肝を潰した仲間たちは、友人のことも忘れて舟を出し、一目散に逃げ去ってしまいました。
 取り残された若者は、ゴリラに押さえつけられ、噛み殺されないようになすがままの状態。ゴリラの言いなりとなって、山奥へと連れていかれました。

 ゴリラが「キャーキャー」と合図を送ると、仲間のゴリラたちが次々と姿を現しました。どうやら、若者を捕えたゴリラはボスや大将にあたる存在だったようです。
 臣下のゴリラたちは大将の指示に従って、木の葉を広場に敷き詰め、男の座る場所を用意しました。さらには木の実や果物などの食べ物を持って来ては食べさせ、男をもてなしている様子。当の男は言うことをきかなければ殺されると思っているため、怯えきってゴリラたちに従っていました。

 そんな生活が一ヶ月、二ヶ月と続いて、男は家に帰ることもできないまま、一年間ゴリラと共に暮らしました。
 月日が経つにつれ、動物といえども情が湧き、いつしか男はゴリラと関係を結び、やがて妊娠させてしまいました。そしてゴリラは彼の子供を出産しました。
 こうして父親となった若者ですが、また山の中に閉じ込められて、生のものを齧る生活を続けていました。

 いつまでもここでゴリラたちと、生のものを食べて生活するわけにはいかない。なんとかして逃げる方法を考えなければ。
 男はそんなことばかり考えるようになっていました。
 そこで、山から少しずつ木を切り出して川辺に運び、ひそかにいかだを作る計画を立てました。
 ゴリラたちは男が何をしているか理解できず、ただいかだが組み立てられていくのを見ていました。

 ようやくいかだも完成し、あとは好機を見定めて逃げるだけとなりました。
 そしてある日、とうとう決心して逃げ出そうとしたときに、運悪く例の大きなゴリラに見つかってしまいました。
 ゴリラは激怒して男に近づくと「自分(どぅー)や、うっちゃんなぎやーに、逃(ひ)んぎてぃ行ちゅんなー(自分をおいて、一人だけで逃げていくのか)」と詰め寄りました。
 置き去りにされる怒りと悔しさにとらわれ、執念を燃やし我を忘れたゴリラ女房は、抱いていた我が子の両足を掴み、力任せに引き裂いてしまいました。
 これがいわゆる「女の心理」であるから、女を無茶に扱ってはならないのだといいます。


 話はここで終わっており、結局、男が逃げ出すことができたのかについては語られていません。


▽関連

ゴリラ婿




 2013年に氷厘亭氷泉氏が発掘されたインパクト最強の異類女房です。申年なのでとうとうTYZにもお呼びしました。
 オハナシというのはやはりどこかの時点で誰かが創ったりアレンジしていってるんだなぁということを再認識させてくれる良い素材にして、非常に貴重であろうゴリラの妖怪!! 語り手のお爺様は「ゴリラ」というべきところを一回「くま」と言い間違えてるので、原形は熊の話として聞いたものだったのかな?なんて。