手の長き猿

■手の長き猿[て‐なが‐さる]

▽解説

 『化物和本草』にある妖怪です。


 人面の猿が松の樹上から手を伸ばし、老人の財布を奪い取ろうとする場面が描かれています。
 猿猴は水面の月を取ろうとした故事で知られていますが、この手長猿は財布の金をとるもので、鳴き声は「ぶっぽうそう」に似て「この街道はぶっそう(物騒)」と聞こえます。
 都の山崎の山中に棲むといい、その昔に早野勘平という狩人がこれを鉄砲で仕留めたといいます。

 早野勘平は『仮名手本忠臣蔵』の登場人物です。
 彼は猪を狙った際に斧定九郎という男を撃ち殺してしまい、これを舅を殺害したと誤解して、切腹して果てるという悲劇的な最後を迎えます。
 「手の長き猿」は勘平が撃った定九郎を化物に見立てたもので、盗賊となった定九郎が山崎街道にて与市兵衛(勘平の本当の舅)を殺し、金五十両を奪う場面を、手長猿(盗人のたとえ)が老人(与市兵衛)の財布を奪う絵にしています。


▽註

・『化物和本草』…寛政10年(1798)刊。山東京伝作、葛飾北斎画。『大和本草』などのパロディとして京伝創作の化物を紹介。