尾三狐

■尾三狐[おさんぎつね]

▽解説

 広島県佐伯郡湯来町に伝わる化け狐です。

 焼場が近く、夜は人通りも少なくなる越峠(こえたお)には、尻尾が三本に分かれた知恵ある狐がおり、食物を背負って通る人は大抵これに化かされたといいます。
 いつの間にか、この狐は越峠の尾三狐と呼ばれるようになっていました。

 ある時、麦谷村で独り暮らしをする善さんという男が、法事の準備で加計の町まで買い物に出ることになりました。
 用が済んだ頃には既に夕暮れ時で、善さんは帰路の越峠を急ぎ登りました。
 途中、峠を越えて親類のもとへ向かうという若い女と出会ったので、善さんは良い道連れができたと同行を申し出ます。
 善さんは彼女の後ろを歩くうち、次第にその腰がうごめいているように思われて妙に気になり、どうにか触ってみたくなりました。
 近寄って手を伸ばすも届かず、遂には抱きつこうともしましたが、どうしても触れることができません。女は後ろを振り返りつつ、誘惑するようなしぐさで藪へと分け入ります。
 善さんは一晩中、夢中になって女を追い回しました。
 やがて、自分を捜しに来た村人の呼び声で疲れ果てた善さんが我に返ると、そこは釜滝山の岩の上で、荷物の中からは十枚ばかり買った油揚げがなくなっていました。善さんもここへきて、ようやく尾三狐に騙されていたと知るのでした。
 女の腰辺りで揺れていたのは、実は三本の尾だったのです。




 中国地方をはじめ各地で語り伝えられる「おさん狐」の一例ですね。ここでは三本の尾すなわち尾三でおさん狐と呼ぶのだと解釈してたようです。