【前説】

 日本の各地に「化物寺」とか「化物問答」と呼ばれる民話が伝わっています。

 旅の者(僧や侍など)が一夜の宿とした無人の荒れ寺に、謎めいた名前の化物が次々と訪れ、これまた正体不明の主人が現れ宴を繰り広げます。どうにか難を逃れた旅の者は、化物の名前から隠された意味――かれらの正体――を読み取り、翌朝それらの隠れ場所を次々を暴き化物退治を果たす……というのが大体の筋です。

 このおはなしに登場する化物、メンバーは寺の主と東西南北から訪れる獣たちで構成されている場合が多いのですが、やはり色々なパターンがあるのです。
 ということで、民話本などを読んでいて見つけた場合にはここにメモしていこうと思います。


【凡例】

 化物名の色分け基準は以下の通り。

 ・寺
 
・東
 ・西
 ・南
 ・北
 ・その他、方位不明
 
 話中で名乗りを上げなかったものについては※を付し、漢字表記orよみがなは()内に。
 名前は登場順(名が明らかになった順)に並べています。
 「」に話名、『』に出典、〈地〉に伝承地、化物名以外で面白い点などあれば「☆」以下に記します。


 
◆「廃れし寺をとりたてし僧の事」―『宿直草』
 〈地〉不明
 〈名〉椿木(ちんぼく)、東野の野干(とうやのやかん)、南池の鯉魚(なんちのりぎょ)、西竹林の一足の鶏(さいちくりんのいっそくのけい)、北山の古狸(ほくざんのこり)
 ☆椿木は堂の材木で一丈ばかりの光物として現れる。野干は身の丈五尺、眼は日月のよう。鯉魚は身の丈七、八尺、眼は黄金色で白銀の鎧を纏う。鶏は朱の兜に紫の鎧で有翼、身の丈六尺ほどで天狗もかくやという恐ろしさ。古狸は身の丈四尺ほどで色も見分けがたい。

◆「万の物年を経ては必ず化くる事」―『曽呂利物語』
 〈地〉伊予国出石
 〈名〉ゑんえう坊こんかのこねんけんやのはとうそんけいが三足こんざんのきうぼく
 ☆ゑんえう坊は丸瓢箪=円揺坊、こんかのこねんは未申の方角の河の鯰=坤河の古鯰、けんやのはとうは戌亥の方角の馬の頭=乾野の馬頭、そんけいが三足は辰巳の三つ足の蛙=巽渓が三足、こんざんのきうぼくは丑寅の古い朽木=艮山の朽木と解される。
 
◆「お化け寺」―宮城県教育委員会『宮城県の民話』
 〈地〉宮城県登米郡豊里町
 〈名〉火打ち石柳の切り板
 ☆どちらも三百年前から埋もれていた。和尚は瓢箪のふりをして一緒に踊る。

◆「化物寺」―小笠原謙吉(編)『紫波郡昔話集』
 〈地〉岩手県紫波郡
 〈名〉古下駄の化けたの
 ☆まなぐ(目)三つに歯が二枚の大入道が三体出現する。片っ端から頭かち割られて死亡。

◆「化けもの寺」―丸山久子、佐藤良裕(編)『陸奥二戸の昔話』
 〈地〉岩手県二戸郡
 〈名〉古みの古かさ古太鼓棚の下の茶ほうず
 ☆床下からは沢山の骨が出た。

◆「なんじ大魚」―浜口一夫『佐渡の民話』
 〈地〉新潟県佐渡市
 〈名〉サイチ(才槌)、サイチクリンノケイノサンソク(西竹林の鶏の三足)、ナンジタイギョ(南池大魚)、ギョウノズコツ(ギョウの頭骨)
 ☆ケイノサンソクは火を吹く三本足の鶏、ズコツは寺の後の墓場にあったしゃれこうべ=後の頭骨?

◆「茶つぼ」―杉原丈夫、石崎直義『若狭・越前の民話』
 〈地〉福井県嶺南地方
 〈名〉寺の茶つぼ
 ☆茶つぼは「どんまるこい体に手と足のついた」姿。中には小判が詰まっていた。

◆「梅円坊の化物退治」―和田登(編)『信州の民話伝説集成 東信編』
 〈地〉長野県佐久市望月
 〈名〉サイチクリンノハッケイ(西竹林の白鶏)、ナンチノタイリ(南池の大鯉)、ホクコクノロウコ(北谷の老狐)
 ☆化物を退治した梅円坊は漢字の師匠となって村に留まった。

◆「化物寺」―大橋和華『恵那昔話集』
 〈地〉岐阜県恵那郡東野
 〈名〉東林の馬頭西竹林の鶏長(けいちょう)、縁の下のちんちくりん万年生きた亀
 ☆万年生きた亀は「前の池」から出現。みな金の杖をドシン、ドシンとつきながらやってくる。

◆「化物寺」―柳田國男(編)『岡山県御津郡昔話集』
 〈地〉岡山県御津郡
 〈名〉木へんに春の字のていていこぼしとうやのばず(東野の馬頭)、さいちくりんのいちがんけい(西竹林の一眼鶏)、なんちのぎょじょ(南池の魚女)、この家に千年住んだちゃかす(茶かす)
 ☆集まった化物はそれぞれの境遇を語る歌を唄いながら踊る。ていていこぼしは椿の槌、南池の魚女は人魚女。

◆「茶壺の化物」―稲田浩二、立石憲利(編)『奥備中の昔話』
 〈地〉岡山県阿哲郡神郷町
 〈名〉千年以前の茶壺二千年以前の茶壺三千年以前の茶壺
 ☆山奥の古寺、椿の木で作られた茶壺。「千年以前の茶壺でござる。あっ、ちゃんぽこせ、ちゃんぽこせ」

◆「ていてい小法師」―野村純一、村岡浅夫(監修)『採訪記録 ひろしまの民話(昔話編)』
 〈地〉広島県比婆郡口和町
 〈名〉ていてい小法師なんちのひご(南池の緋鯉)、さいちくりんのいっそくのけい(西竹林の一足の鶏)、ほくざんのぎゅう(北山の牛)、とうざんのばず(東山の馬頭)
 ☆ていてい小法師は「かたちのさいし(椿の木槌)」の化物。化物たちは大きな坊主の姿。

◆「てえてえ小法師」―稲田浩二、福田晃(編)『大山北麓の昔話』
 〈地〉鳥取県東伯郡東伯町森藤
 〈名〉てえてえ小法師東林の馬頭(とうりんのばとう)、南水の魚(なんすいのぎょ)、西竹林の一眼の鶏(さいちくりんのいちがんのけえ)、
 ☆発光しながら入ってくるが、坊さんに正体を見破られると光が消える。

◆「化物問答」―酒井董美『ふるさとの民話 第五集 鳥取県中部編』
 〈地〉鳥取県東伯郡三朝町吉尾
 〈名〉テッチン坊トウザンのバコツ(東山の馬頭)、サイチクリンのケイ(西竹林の鶏)、ナンチのリギョ(南池の鯉魚)、ホクヤのビャッコ(北野の白狐)
 ☆テッチン坊は椿の藁打ち杵。「まぁ、お入り」と化物を迎える。

◆「てんじくてんさい坊」―石塚尊俊『出雲の民話』
 〈地〉島根県
 〈名〉てんじくてんさい坊なんすいのうお(南水の魚)、さいちくりんのいっそくとび(西竹林の一足飛)
 ☆てんさい坊は槌(かけや)、魚は大鯉、一足飛は真っ白い大きな山鳥。槌は薪、鯉は刺身、山鳥は鍋にして食ったとか。

◆「化物問答」―酒井董美『ふるさとの民話 第一集 出雲編』
 〈地〉島根県安来市広瀬鳥梶福留
 〈名〉テエテエコボシトウチノバズサイチクリンノサンゾクナンチノリオ