個体名をもつ化け狸の不完全まとめ

 【名前】、〈地〉地域、〈説〉概要説明、〈出〉出典の順に記します。
 「○○(地域名)の狸」といった類は、一個体として語られていても基本的に除外します。




単独

【伊右衛門狸】
 〈地〉兵庫県三原郡
 〈説〉淡路の木曽ノ原に妻のおよいと共に棲んでいた。愛嬌があり村人からも可愛がられていた。あるとき先祖伝来の狸の術を使ってみたくなり、妻が止めるのも聞かず悪戯を繰り返すようになった。やがて退治を頼まれやって来た清重なる豪傑に懲らしめられて頭を剃りあげられてしまった。以来、「清重さま、まかり通る」と聞けば体が震え、人間を化かすことができなくなったという。
 〈出〉宮崎修二朗、徳山静子『兵庫の民話』

隠神刑部
 〈地〉愛媛県松山市
 〈説〉伊予松山の八百八狸の総大将で、長年松山城を守護してきた。松山藩のお家騒動に介入して謀反勢力に加担したが、最後は眷属と共に久万山に封印されるも、山口霊神として祀られるようになった。
 〈出〉玉井葵『伊予の狸話』ほか

【おさん】
 〈地〉愛媛県川之江市
 〈説〉棹の宮のお使い狸。
 〈出〉玉井葵『伊予の狸話』

【お玉狸】
 〈地〉新潟県十日町市吉田
 〈説〉鐙坂の長老清水に三百年も前から住んでいる古狸。鉢の五郎狐が宝の玉を失ったのを哀れみ、自分が持つ宝珠の玉を貸し与えた。
 〈出〉越路新報社『つまりの民話―集大成版―』

【お増】
 〈地〉兵庫県淡路市
 〈説〉洲本三熊山の芝右衛門狸の妻。町に近い川堤の松の上に棲んでいた。ある夏、芝右衛門に誘われて浪速に芝居見物に向かったが、道中で戯れに化け比べをし、本物の殿様行列を夫と勘違いして声をかけたため斬り殺されてしまった。
 〈出〉宮崎修二朗、徳山静子『兵庫の民話』

【およい】
 〈地〉兵庫県三原郡
 〈説〉淡路の木曽ノ原に夫の伊右衛門と共に暮らす雌狸。先祖伝来の術で人間に悪戯をする夫を叱る。
 〈出〉宮崎修二朗、徳山静子『兵庫の民話』

【金平】
 〈地〉愛媛県松山市
 〈説〉大宮神社のお使い狸。
 〈出〉玉井葵『伊予の狸話』

【小女郎】
 〈地〉愛媛県新居郡新居浜
 〈説〉新居浜金子村の一宮という小祠に棲む狸で、女に化けて人を化かす術を心得ていた。目明しの喜平という男が退治にきた時、小女郎は化粧中ながら「はいよ」と返事をして出てきた。騙せるものなら騙してみよと言う喜平に、小女郎は今夜嫁入りがあるから一緒に行かないかと誘い、馬のふりをさせた。翌日、野山で気に繋がれてヒンヒン鳴いて跳ねている喜平が発見された。
 〈出〉西園寺源透『伊予奇談伝説』

【芝右衛門狸】
 〈地〉兵庫県淡路市
 〈説〉洲本の三熊山に棲む愛嬌者の狸。妻と共に浪速へ芝居見物に行って連日通い詰めたが、犬に噛みつかれて正体を現し、人々に打たれて死んでしまった。芝居はその後客足が遠のいたが、芝右衛門を祀ったところ再び繁盛した。それ以来芝居の神様として崇敬を集めたという。
 〈出〉宮崎修二朗、徳山静子『兵庫の民話』ほか

【藤兵衛狸】
 〈地〉広島県広島市
 〈説〉阿波の化け狸。天下一の化け上手と自負しており、江波のおさん狐に対抗意識を燃やし、わざわざ海を渡って化け比べを挑みにきた。花嫁や侍に化けてみせたが、大名行列をおさんが化けたものと勘違いして近寄り斬り捨てられた。
 〈出〉垣内稔『安芸・備後の民話』

【北海ばい翁】
 〈地〉石川県金沢市
 〈説〉金沢の藤兵衛という駕籠かきが武蔵国で乗せた般若修行の老僧。実は総泉寺に二百年以上住んでいた古狢で、道中で犬に噛み殺されてしまう。
 路銀の残りは住職の計らいで藤兵衛らに分け与えられたが、やがて藤兵衛は狂死。相棒を務めた九兵衛はそれを知ると、持仏堂に僧の戒名である「北海ばい翁」の碑を建てた(「ばい」は雨かんむりに狸)。
 〈出〉堀麦水『三州奇談』

【万八狸】
 〈地〉兵庫県三木市
 〈説〉二瀬川の黒滝に棲んでいたおちゃめな狸。川端の道を通る人々の愛嬌を振りまいて可愛がられていた。ある時、谷の大将の座をかけて市野瀬のお万狐と術くらべをして勝利した。万八狸はその後も滝壺の上で美しい娘に化けて糸車を回したり、小僧になって橋を渡る人の手を引いたりした。人々からは感謝され、満福大明神として祀られた。
 〈出〉兵庫県学校厚生会『ひょうごの民話』

【与三郎狸】
 〈地〉山口県大島郡
 〈説〉伊予の古狸で屋島の合戦を再現するのが得意。岩国のお三狐と非常に仲が悪い。主従関係を争う化け比べではしばらく五分五分の戦いを続けたが、最後は本物の大名行列を偽物と思いこませて勝利した。
 〈出〉宮本常一『周防大島昔話集』
 



血縁、関係性、グループ等

・伊右衛門狸、およい
 夫婦。

・芝右衛門狸、お増
 夫婦。