座敷童

■座敷童[ざしきわらし]

▽解説

 岩手県を中心として東北地方に伝わる妖怪です。
 垂髪やおかっぱ、散切り頭で赤い顔をした子供の妖怪で、年齢はおよそ5、6歳あるいは12、3歳ほど、すなわち童子の外見だといい、土地の豪農や由緒ある旧家の奥座敷などにいるといわれました。
 座敷童がいる間はその家の富貴繁盛が続きますが、いなくなると家運も衰えていくとされています。時として人前に姿を現し、言葉を交わすこともあり、他にも寝床を歩き回ったり枕を返すなどの悪戯をすることもあるようです。
 同様の存在としてはザシキボッコやクラワラシなどという名もあり、単にワラシとのみ呼ぶこともあったようです。
 岩手県江刺郡では座敷童にはチョウピラコ、ウスツキコ、ノタバリコといった種別があるといわれ、それらには格の上下があると考えられていました。
 『遠野物語』および『遠野物語拾遺』に座敷童に関する記述があるほか、佐々木喜善の『奥州のザシキワラシの話』にも数多くの伝承事例が採録されています。

 岩手県上閉伊郡土淵村の今淵家では男の子の姿をした座敷童が家の娘を脅かしたことがあったといいます。
 同村佐々木家にも座敷童が住んでおり、姿を見せないながらも紙を揺すってガサガサと音を立てたり、頻りに鼻を鳴らしたりしていたといいます。
 山口家の座敷童は二人の童女であったといい、彼女らが別の家に移る姿が目撃されて間もなく家人二十数名が茸で食中毒を起こして死に絶えたといいます。
 また綾織村砂子沢のある家にはもとお姫様の座敷童がいたといい、これがいなくなると共に家も貧乏になったといいます。
 附馬牛村下窪家では来客が神棚の下にうずくまる座敷童を見ることがあったといわれています。
 このほか、座敷童がいる家についての伝承、目撃談は枚挙に暇がなく、佐々木喜善が「ザシキワラシ出現の場所及家名表」にまとめた座敷童類の出現地は岩手県内だけで百ヶ所にも及びます。

 座敷童はその家の主人にしか姿が見えないとされる場合もあります。
 たとえば岩手県稗貫郡亀ヶ森村の箱崎家にいた座敷童は、信心深い当主が仏前に手を合わせている際に現れて、灯明をフッと吹き消すことがあったといいます。このワラシはツルツルの坊主頭で裸体を晒していますが、主人にも姿が見えるときと見えないときがあり、主人以外の者には決して見えなかったといわれています。
 和賀郡谷内村の某家にいた座敷童は戸や障子を揺り動かしたり足音を立てることはあっても普段は姿を見せませんでした。
 この座敷童も見ることができるのは主人のみ、それも一生に三度だけと伝えられています。
 

▽註

・『遠野物語』…柳田國男著。明治43年初版。佐々木喜善が語った岩手県遠野の伝承を柳田が記録したもの。日本民俗学の発展に寄与したほか、文学作品としても評価されている。