旅人馬

■旅人馬[たびびとうま]

▽解説

 九州や山陰地方など、各地に伝わる昔話に登場するものです。

 地域により細かな違いはありますが、おおむね以下のような内容で語られていました。
 
 昔、あるところに裕福な家の子と貧しい家の子がいました。
 貧富の差こそあれ二人は仲が良く、あるとき揃って旅に出ました。
 歩みを進めるうちに夜を迎え、二人は行き着いた家に一夜の宿を求めます。
 真夜中になると、この家の女が囲炉裏端で怪しい行動をとり始めました。寝つけないでいた旅人の一方が密かに様子を窺ったところ、女が掻き均した囲炉裏の灰に米の種籾を蒔いているのが見えました。囲炉裏にはみるみるうちに稲が伸び、女は収穫した米を使って団子を作っています。
 翌朝、目を覚ました二人に例の団子が振舞われました。夜中起きていた貧しい子が止めるのも聞かず、裕福な家の子はこれを口へと運びます。
 食べ終わった途端、その子の姿は馬に変じてしまいました。
 馬が轡をはめられ、綱で厩へ引かれていく隙に、残された旅人は家を飛び出します。そして逃げた先である老爺と出会います。
 旅人から話を聞いた老爺は「この先の茄子畑に、一本の木に東向きの実が七つなった茄子があるから、それを取って食わせれば馬は人に戻る」と教えます。
 貧乏な子は何日もかけて茄子畑を探し求めた末、遂に老人の言葉通り七つ実った茄子を見つけました。
 急いであの家へ戻ってみれば、友が化した馬は農作業で酷使され、痩せ細って弱りきっていました。そんな馬の口に七つの茄子を無理に押し込むと、その姿はたちまち元の人間へと戻りました。
 故郷に帰った二人は親たちに経緯を話して聞かせました。金持ちの家の主人は、息子の友人の行いに甚く感銘を受け、彼に財産を分け与えました。
 このようなことがあって、二人はいつまでも仲良く暮らしたのだといいます。





 人が馬に変えられる話は中国にもあって、旅人馬はこれが伝わったものではないかといわれてます。泉鏡花の『高野聖』も同様の話を素材にしたものですね。あと今昔物語とかにもお坊さんが馬に変えられる話があったりします。
 ともかく、もし旅先で馬にされたりしたら絶望感凄まじいだろうなぁと思うのであります。