火象

■火象[かぞう]

▽解説

 三十巻本『仏名経』所収『大乗蓮華宝達菩薩問答報応沙門経』の説く沙門地獄の一つ、火象地獄にいるとされる獣です。
 日本の作品では12世紀ごろに描かれた『地獄草紙』(益田家本)にその絵姿をみることができます。

 火象地獄は鉄囲山(世界の中心にある須弥山をめぐる九山八海のうち、最も外側にある鉄の山)の間にあるとされます。
 この場所の衆生はかつて人間世界にあり、また仏法に出会い、沙門となって如来の浄戒を受けながらも淫欲に耽り、仏像を汚し損じた罪によって地獄に堕ちた者たちです。
 この地獄には大いなる火象がいて、その口や眼から煙と炎を噴き出しています。
 火象の威容に肝を潰し身動きもとれないでいると、獄卒の馬頭が沙門らを捕らえ、これを火象の背に乗せます。すると象は駆け出し、地に落ちた沙門の身を炎が焼きます。あるいは象に踏み潰され、また噛み喰らわれて苦しみます。
 罪人たちは日夜千度死んでは千度生き返り、このような責苦を延々と味わうことになっています。