づるづるべったり

■づるづるべったり

▽解説

 『画本纂怪興』にある妖怪です。

 三つ布団(高位の遊女が用いた三枚重ねの敷布団)の上で微笑んでいる、異様に鼻毛の長い男が描かれています。男には手がなく、下半身もほとんど消えた状態となっています。
 「此妖怪極めて手なく、鼻毛は延て読ざるに其数あざやかなり。一度女郎の懐にいれば腰から下は抜作となり、づるづるべったりとなるにより、其名に呼んで業を晒す化物とや云わん。馬鹿ものとやいわん」とあり、「はるらしく鼻毛の延た化物は傾城の手でぶちころすなり 糸瓜丈長」という狂歌が添えられています。

 「ずるずるべったり」とは、けじめなく惰性である状態を継続する様子をいいます。
 すなわちこの図は、遊里にずるずるべったり長居する客を妖怪に見立てたものであるといえます。
 そして「鼻毛を読む(鼻毛を数える)」とは、女が自分に惚れた男を思いのまま操ることです。
 腹のあたりまで鼻毛が伸び、数えずともはっきり読めてしまう「づるづるべったり」は、だらしない抜け作で、手(手段)もないため、どうしようもない馬鹿者の化物だといえるでしょう。


▽註

・『画本纂怪興』…見立絵本、狂歌絵本。森羅万象(森島中良)作、北尾政美画。寛政3年(1791)刊。化物絵本のパロディとして作られており、既存の語句や風俗、人の気質などを化物に見立てて28種紹介する。