このつきとっこう

■このつきとっこう

▽解説

 薩摩に伝わる大石兵六の物語を描いた『大石兵六物語絵巻』に登場する妖怪の一つで、狐が化けた姿と考えられるものです。

 人を化かし、髪を剃ってしまう狐を退治するため牟礼の岡へ出かけた大石兵六は、次々現れる宇蛇、蓑姥上、三目猴猿、ぬらりひょんといった化物に脅かされ、肝を潰してほうほうの体で逃げていました。
 気力も尽き果て、「今は何時だろう、ああ、早く夜明けになれ」と呟いたところ、「今夜は八ツ時、丑の刻。夜が明けたら何とする。我はこのつきとっこうなり」と答える者があります。今にも飛びかかってきそうな勢いで現れた化物は、二つの目が輝き、嘴がとがり、体の左右に翼を有していました。
 兵六はまたも驚き飛び上がり、足元のいばらも気に留めず逃げ出していきました。
 
 このつきとっこう(この月取っ食おう)とは薩摩地方での梟の鳴き声の表し方で、梟自体もとっくおー、とっくおどりなどと呼ばれました。
 絵巻に描かれたこのつきとっこうも、巨大なミミズクの姿をしています。


▽註

・『大石兵六物語絵巻』…薩摩の大石兵六という若侍による狐退治の顛末を描いた絵巻で、狐が化けた様々な妖怪が登場する。複数の作例が確認されている。


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