斑猫喰

■斑猫喰[はんみょうくい]

▽解説

 『黒甜瑣語』にある怪鳥です。

 伊達の掛田という所には古池があり、あるときここに赤い鳥が浮かんでいました。
 鳥は山鳩ほどの大きさでしたが、周囲は水面から木陰にいたるまで鳥の体色を反射して火のような紅に染まっていました。
 ある侍がこの鳥を獲ろうと矢を放って見事に射止め、捕まえようと池に入ったところ、その途端に即死してしまいました。
 更に彼の骸を引き揚げるため池に入った三人も次々に死亡し、射られたはずの鳥はどこかへ飛び去ってしまいました。
 ある人が語るには、これは斑猫喰という鳥で、『黒甜瑣語』の著者である人見蕉雨は中国に伝わる毒鳥・鴆(ちん)の類ではないかとしています。


 斑猫(ハンミョウ)は毒虫として知られ、『黒甜瑣語』にもその毒性の強さを示す逸話が記されています。

 石川去舟という俳人が、あるとき鼻先に飛んできた一匹の斑猫を扇で打ち落としました。
 虫は積み重ねてあった懐紙の上に落ち、一滴の油のようなものを残してまた飛び去っていきました。
 油の染みは百枚余りの綴紙の半ば以上にまで届いており、去舟も目がくらんで半月ばかり病み臥せることとなりました。もしも扇で払いのけていなければ、去舟は毒のため無残に死んでいたかもしれないということです。

 鴆は毒蛇を常食として体内に毒を蓄えますが、斑猫喰は斑猫を食べているため毒を持つものと解されたようです。
 ただし実際のハンミョウは無毒で、有毒であるという説はツチハンミョウ科のミドリゲンセイ、マメハンミョウなどと混同された結果生じたものです。疼痛緩和剤として薬用に供されることのあった斑猫はこれらツチハンミョウ科の昆虫の体内に含まれるカンタリジンを利用したものです。


▽註

・『黒甜瑣語』…人見蕉雨の随筆。寛政~享和の成立。





 斑猫喰が浮かんでた水に入っただけでも人間が即死するわけだから、斑猫喰の焼き鳥とか作ったら煙で大惨事になりそうですね。