鼈

■鼈[すっぽん]

▽解説

 すっぽん(鼈、泥亀)は各地で妖怪視されていました。河童と同じような性質が伝えられることも多く、たとえば京都府や兵庫県などでは人を水中に引き込むことがあるといわれていました。
 執念深い性質から人に祟りをなした話も多く伝わっています。

 一例として、『奇談雑史』には次のような話があります。
 泉州堺の町に泥亀(すっぽん)を売る商人がいました。
 この商人の男は井戸端で泥亀を捌こうとした時、誤って包丁を井戸へ落としてしまいます。
 そこで戯れに「いま落とした包丁を井の中から取ってくれば、お前の命を助けてやろう」と言って泥亀を井戸の中へ吊り落としました。
 すると泥亀は本当に包丁を口にくわえて、縄を登り井戸から上がってきました。
 男は「よくくわえて来た」と言った直後、その包丁で泥亀の首を刎ねてしまいました。
 切り落とされた泥亀の頭は、約束を破った男の首に食らいついて離れず、男は遂に噛み殺されてしまいました。

 また天明の頃、但州宵田村の清助という者が大きな泥亀を捕えたことがありました。
 清助は寺の裏手の淵で泥亀を切り殺そうとしましたが、先の男と同じように包丁を水中へ落としてしまいました。
 清助もまた泥亀を縄で縛り、「包丁をくわえて来たなら命を助けよう」と淵へ投げ入れました。
 程なくして包丁をくわえて浮上した泥亀を、清助はやはり切り殺し、友人らを呼び集め泥亀を肴に酒盛りを開きました。
 食事中、清助は何かが喉に引っかかるような違和感を覚えました。次第に違和感は強い痛みとなり、食事も喉を通らなくなり、九日目にして狂死したといいます。


▽註

・『奇談雑史』…宮負定雄による奇談集。文久2年(1862)成立。


▽関連

河童