犬神

■犬神[いぬがみ]

▽解説

 代表的な憑物のひとつで、主に中国地方西南部、四国や九州の農村地帯でいうものです。
 犬神を使役する者や犬神の憑いている家は犬神持ち、犬神筋などと呼ばれました。

 人為的に作られる憑き物とされることもあり、その場合にはいくつかの製法が伝わっています。
 まず飢えた犬を首から上だけ出して土に埋め、目の前に飯を持った茶碗を置きます。そして「命令どおりに動くなら飯を与え、神として祀ってやろう」という旨を言い渡し、その犬の首を切り落とします。
 この儀式の後に首を神として祀れば、願いが叶うといわれています。土に埋めるのではなく、多くの犬を闘わせて勝ち残った1匹の首を切り落とすとする場合もあります。

 犬神の姿については目に見えない霊であるとするほか、手に載るほどの大きさの鼠や鼬、土竜、犬のようなものだともいわれることもあります。『塵埃』には、祈祷を行って払い落とした犬神の図として、細長い胴と短い足を持つ獣が描かれています。
 また、『百怪図巻』などの化物尽くし絵巻では僧衣を纏った黒犬として描かれ、『画図百鬼夜行』では狩衣を着た犬の姿で白児と共に描かれています。

 犬神に憑かれると原因不明の高熱や腹痛など様々な病気になり、発作を起こして犬の真似をするなどといいます。このような場合は医者では治すことができず、呪術者に頼んで憑き物を落として貰わなければならないといいます。
 徳島県地方では犬神に憑かれると驚くほど飯を食うようになり、憑かれて死んだ者の体に犬の歯型がついているといわれました。また牛馬に憑いて苦しめたり、鋸について使い物にならなくしたりもするといいます。


▽註

・『百怪図巻』…佐脇嵩之の妖怪絵巻。元文2年(1737)制作。30種の妖怪が描かれている。「妖怪図巻」とも。
・『画図百鬼夜行』…鳥山石燕の妖怪画集第一作。安永5年(1776)刊。


▽関連

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