二口女

■二口女[ふたくちおんな]

▽解説

 『絵本百物語』にある妖怪です。

 頭脳唇(ふたくち)とは慳貪、邪険、無慙放逸の悪心から起こる業病で、唐土にも見られるものだといいます。
 この病に罹った者は、頭の後ろあるいは首筋の上に口が生じ、髪が蛇のようになってそこに食物を運びます。食物を与えなければひどく苦しむことになるといいます。

 下総国の千葉に住んでいた女は、自分の子のみを愛し、先妻と夫の間に出来た子には食事を与えようともしませんでした。やがて子は病に罹って餓死してしまいました。
 継子の死から四十九日目、夫が家で薪を割っていると、その後ろを妻が通りかかりました。夫はそれに気づかず斧を振り上げ、誤って妻の後頭部に斧を打ち当ててしまいました。
 妻の頭は割れ、血が夥しく出て一向に傷は癒えることがありませんでした。
 やがて傷口は唇のような形になり、飛び出た骨は歯のようになり、肉が突き上がって舌のような形になっていきました。
 傷は決まった時刻になると耐え難いほどに痛み、食物を入れると痛みは和らぎました。そのため、女は顔の前後に口があるような状態となりました。
 その内にひそひそと声が聞こえるようになったので聞き耳を立てると、頻りに「自分の心得違いから先妻の子を殺してしまった、間違いだった、間違いだった」と言っていたといいます。


 各地に伝わる「食わず女房」「飯食わぬ女房」などと呼ばれる昔話には、二口女同様に頭部に口をもつ怪女が登場しており、両者はたびたび同一視されて語られてきました。
 しかし、こちらの正体は山姥や大蜘蛛などとされるほか、話の型も全く異なっており、厳密には『絵本百物語』の二口女とは別物であるといえるでしょう。


▽註

・『絵本百物語』…天保12年(1841)刊の怪談集。桃山人作、竹原春泉斎画。副題『桃山人夜話』。


▽関連

食わず女房