朱の盤

■朱の盤[しゅ-ばん]

▽解説

 福島県や新潟県でいう妖怪です。

 新潟県三条市見附町近くの元町に朱盤がいたといいます。朱色の盤のような顔の大坊主だったため、この名で呼ばれたようです。
 この辺りには青石塔があり、よくない所だといわれていました。昔、青石塔に金を埋めた富豪がいて、その金を盗みに来る者は皆化け物に会って失敗したといいます。

 『老媼茶話』には、次のような話があります。
 昔、会津の諏訪の宮辺りには朱の盤という化け物がいるという噂がありました。
 ある日の夕暮れに若侍がこの辺りを通りかかり、自分と同じ年の頃の侍と出会いました。朱の盤の噂を恐ろしく思っていた侍は、よい道連れが出来たと思い、彼と話しながら歩くことにしました。
 そしてふと「朱の盤の噂をご存知か」と尋ねてみたところ、相手の侍は「その化け物と申すはかようのものか」と言うなり、朱のような顔色、目は皿のようで額には一本角、頭には針のような毛、口は耳まで裂けて歯噛みする音は雷のような恐ろしい化け物に変じました。
 これを見た侍は気を失い、およそ半時後に諏訪の宮の前で目覚めました。
 近くの家に入って水を一杯貰いたいと言うと、出てきた女房が事情を尋ねてきたので、侍は朱の盤に遭遇したことを包み隠さず話しました。
 「さてさてそれは恐ろしい目にお遭いなされました、その朱の盤とはかようのものでございますか」と言った女房の顔は、先程の化け物と同じものに変わっていました。
 若侍はまたも気絶して、暫くしてから息を吹き返しましたが、その後百日目に死んでしまったといいます。

 この妖怪の名を朱の盆(しゅのぼん)としている書籍もありますが、その多くが『老媼茶話』にある話を引用していることから、誤記が広まったものであると考えられます。


▽註

・『老媼茶話』…寛保2(1742)年成立の奇談集。会津藩士・三坂春編著。草庵の隠士が老媼の話を筆録したという体裁で、主に会津の伝承を収録。


▽関連

再度の怪





 「しゅのばん」か「しゅのぼん」、どっちが古い呼び方だったかな?と頻繁に混乱します。