海坊主

■海坊主[うみぼうず]

▽解説

 日本各地の沿岸部に伝えられる海の妖怪です。

 船を転覆させたり、凶事の前兆であったりする真っ黒な怪物であることが多く、『本朝俗諺志』には高さ十丈(約30m)の海坊主が阿波と土佐の国境の沖合いに出現したとの記述があります。
 『斉諧俗談』は、海坊主は鼈の体に人の顔をしているもので、中華における和尚魚と同じであるとしています。
 また、宮城県気仙沼市大島では美女に化けて、夜船を漕ぐ男に競泳を挑んだといいます。愛媛県宇和島市下波では按摩に化けた海坊主が猟師の妻を殺した話が伝わっています。

 船幽霊のように「柄杓を貸せ」と言って現れるとする地方も多くあり、この場合は船幽霊同様、柄杓を渡すと海水を船内に汲み入れて沈没させられてしまうため、底を抜いた柄杓を渡せばよいといわれています。

 多くの場合不幸を齎す存在である海坊主ですが、愛媛県温泉郡中島町では海坊主を見た者は長寿になると伝えられています。

 絵画においてもやはり海上に姿を見せる真っ黒な人型の妖怪として表現される場合が多く、たとえば『絵本小夜時雨』には荒波を割って船の行く手に姿を現した海坊主が、『異魔話武可誌』には雨中の海で船に腰かける海坊主が描かれています。
 また、化物尽くし絵巻にも海坊主を描いたものが確認されおり、こちらでは魚の鰭のような器官も描かれています。
 

▽註

・『本朝俗諺志』…菊岡沾凉の随筆。延享3(1746)刊。
・『斉諧俗談』…大朏東華の随筆。宝暦8年(1758)刊。
・『異魔話武可誌』…勝川春英画、勝川春章補助による絵本。寛政二(1790)年刊。32の妖怪が描かれているが、名前が記されているのみで解説の類はない。
・『絵本小夜時雨』…絵本読本。速水春暁斎画作。寛政12(1800)年刊。数々の怪談、奇談を収める。一部の絵には『異魔話武可誌』の影響がみてとれる。

▽関連

船幽霊