猪笹王

■猪笹王[いざさおう]

▽解説

 奈良県吉野山中、吉野郡川上村伯母ヶ峰に伝わる妖怪です。生笹、一本足、一本だたらと呼ばれることもあります。「いのささおう」という読みがあてられている場合もあります。

 昔、天ヶ瀬に射馬兵庫という猟師がいて、あるとき伯母ヶ峰の奥で背中に熊笹の生えた大猪を撃ち倒しました。
 それから数日後、紀州湯の峰の温泉に、足を傷めた野武士が湯治にやって来ました。武士は自分の寝ている部屋を見るなと言いつけていましたが、それを破った宿の主人は、背中に熊笹の生えた怪物が座敷一杯になって寝ている姿を目撃します。
 驚いた主人に対して怪物は「自分は伯母ヶ峰にすむ猪笹王だが、射馬兵庫という猟師に撃ち殺され、亡霊となってしまった。恨みを晴らしたいから、兵庫の犬と鉄砲をどうにかしてくれ」と言います。
 土地の役人は猪笹王の亡霊を恐れ、犬と鉄砲を渡すよう兵庫に交渉を持ちかけます。しかし兵庫はそれを聞き入れず、鉄砲と犬は彼の手にあるままとなってしまいました。
 やがて猪笹王の亡霊は一本足の鬼となり、伯母ヶ峰に現れては旅人を襲うようになったので、遂に東熊野街道は廃道同様になってしまいました。
 その後、丹誠上人が伯母ヶ峰の地蔵尊を勧請して猪笹王を封じてからは、旅人もまた安心して街道を通れるようになりましたが、毎年十二月二十日だけ鬼は自由の身となるため、伯母ヶ峰ではこの日を「果ての二十日」と呼び、厄日の扱いにしたといいます。


▽関連

一本だたら





 「笹藪そのものが移動している」とも表現される、背中に笹の生えた大猪っていうビジュアルに妖怪的かっこよさを感じます。


 2018年9月20日改訂
 「猪笹王」の読みを「いのささおう」から「いざさおう」にあらためました。